――― 中2の弟がいるの。
そう言えば、「けっこう、離れてるねー」とか「じゃ、可愛いでしょ?」などのお言葉を頂戴する。

確かに10歳は離れていると思う。ただ、離れすぎてて接点ないのよね。今のわたしと赤也って。
もしも、赤也が弟じゃなくて、妹だったりしたら、多分というか絶対に違う関係になっていると思う。
正直、一時期は妹が良かったと心底思ったりもしてた。中高生の頃に、友達が妹と一緒に買い物に行ったという話を聞く度に羨ましかったんだ。

部活に勉強にと忙しい義務教育まっただ中の14歳、仕事に日々の大半を捕らわれている24歳。
大学を卒業後、百貨店に就職したわたしの生活リズムは、現役中学生の赤也とはまるきり違って、一週間の内、2,3度顔を合わせればいい方だ。仕事のシフト次第では、全く顔を合わせない事も多々。週末が稼ぎ時の百貨店だから、当然、土日祝日に休みを取るなんて、それこそ、結婚式とかどうしても休みたい時のみ。ひとの多い休日に出かけるくらいなら、仕事をしていた方がいいと思っているわたし。テニス部に所属している赤也も、やれ練習だ、やれ試合だと、家に居ることは滅多ないらしいと、母から聞いている。大学時代も、わたしは家を空けていたことが多く、3,4年の頃なんて、午前中の授業が無かったら、昼過ぎまで寝ていたし、就職活動中の朝、眠い目を擦りながら部屋を出たとき、玄関先から「やっべ!遅刻するっ!」とか「なんで、ギリギリまで起こしてくんねぇんだよっ!」と慌てた声を聞く程度だった。あぁ、でも手のひらに乗るくらいのサイズだった靴が何時しか、わたしの靴よりも大きくなっていたのを目にしたとき、こんな靴を履くようになっちゃったのね。と感心し、自分も年を重ねていると痛感したんだ。

赤也が生まれた頃は、うれしさと物珍しさでかまっていたりしたけれど、互いに成長していく内に、赤也に対しての興味は次第に薄れていった。年の離れた弟と遊ぶよりも、友達と遊んだりする方が、最優先になるのは当然だと思う。年が重ねられていく内にわたしの自身の生活と、赤也の生活が重なり合うことは同じ家の中であっても滅多に無い。











「切原さん、後は僕がやるから休憩に行ってきていいよ」

バックヤードで在庫整理をしていると、上司がやって来て声をかけてくれた。言われて、腕時計を見ると、ここに来てから1時間以上経過していた。あら、もうこんなに時間が過ぎちゃったんだ。

「はい、ありがとございます。じゃ、後はよろしくお願いします」
「うん。残りはこのラックにかかっている商品だけ?」
「はい。プライスのタグは、ここにあります」
「わかった。じゃ、ごゆっくり」

ひらひらと手を振ってくれた上司に向かって軽く頭を下げて、棚の上に置いていた透明なビニール製のバックを手に休憩室へと向かった。
何を飲もうかなあ〜と思いつつバックの中に入っている携帯を取り出すと、着信を教えるアイコンが浮かんでいた。
…誰かな?足を動かしながら携帯を開くと、新着メールお知らせが画面に浮かび上がっていて、ボタンを操作して受信メールのフォルダを開くと、母からだった。
珍しい、お母さんがメールを送ってくるなんて。
開いて母からのメールを読むと、千葉に住む伯父が怪我をしたので、今から会いに行くから夕飯は頼む。と書いてあった。
…今日、早番だからいいけど、遅番だったらどうするつもりだったんだろう、母さん。
パチンと携帯を閉じバックに放りこみ、自販機のある所まで足を動かした。

喫煙室で、たばこを灰皿に押しつけていた時、鈍い音がバックの中から聞こえだし、覗くと携帯が震えていたから、幸いわたし以外ここには誰もいなかったから、そのまま取りだし通話ボタンを押した。

「母さんだけど、今、電話大丈夫?」
「大丈夫。何?」
「今ね、最寄りの駅に着いたのよ。これからタクシーに乗って病院へ行くから」
「ちょっと、伯父さんが病院って、どうしたの?」
「それがね、脚立から足を踏み外して骨折だって」
「…えっ!」
「だから、。赤也の晩ごはん、よろしくね。あの子、7時頃には帰ってくるから。じゃ、タクシー乗るから切るわね」
「…え、ちょっと待っ」

待ってよ。と言い終える前に、電話は切られてしまった。慌てた母の口調から、かけ直す気にもならず、仕事が終わったら地下の総菜屋で適当に見繕って帰ろうと、2本目のたばこに手を伸ばし、火をつけた。
最近ちっとも、赤也と顔を合わせていなかったな。朝は、赤也の方が早いし、帰ってきても赤也は食べ終えたりしてて、部屋から出てこないしな。まあ、ゲームをしてる音やかけ声はドア越しから聞こえてきてたりするから、居るのはわかっていたけれど。
ふうーっと煙を吐き出して、ソファーに背を預けぼんやりしていた。



「すいません。その豚肉と野菜の細切り炒めを1パックと春巻きを6本下さい。それと、温野菜サラダを1パック、あと海の幸の広東風1パック以上です」
「はい、ありがとうございます」

手際よく春巻きをプラスティックケースに入れていく店員さんの姿を見ながら、これで足りるのかな?不意に心配になった、中学生がどれだけ食べるかなんて知らないないし、まあ、ご飯は帰ってから炊けばいい、足りなかったら、コンビニでも行って買ってきてもらえばいいかと、お総菜の入ったビニール袋を受け取った時、一瞬、母さんの顔が浮かんだけれど、無視無視。立ち仕事で疲れた身体で、キッチンに立つのは、あんまりしたくない。ほんと、赤也が居なかったら、友達を誘ってご飯に行くところなんだけどなぁ。
カサカサと乾いた音を立てるビニール袋に目を落として、小さくため息を漏らした。
帰宅時間の駅はそれなりに混雑していて、ひとを避けながら自分の乗る電車のやって来るホームへと向かった。タイミング良く電車の到着を告げるアナウンスに、ラッキーと思いつつ、不意に後方から聞き覚えのある声が耳に届いてきた。

「マジ、ありえねーって!も、あれは体罰だって!」
「…で、でも切原くんが怒られるような事したんでしょう?」
「そうだけどよっ!!何も、ゲンコツで殴らなくてもよくねぇ?なあ、?」

思わず首を動かして声の方向を見ると、そこにはテニスバックを担いだ赤也の姿と女の子が並んで歩いていた。赤也は、女の子の方を見ているから、わたしの視線に気付いていなく、ぷくっと頬を膨らませて女の子を見ている。…あの子、赤也の彼女、かな?

「…でも、切原くんの場合って口で言ってもわからないからじゃないの?」
「ちょー冷てぇの!。折角、この部活で疲れた身体にむち打って、本屋まで付き合ってやったのによー!」
「わたし、無理ならいいって、ちゃんと言ったよ」

おっとりした口調で話す女の子と赤也の声は次第に遠ざかってしまった。そして、赤也と女の子はわたしが並んでいる列から2列離れた列に立ったから、ふたりの姿は見えづらくなってしまった。
…仲いいのねー。ぶちぶちと文句を言っていた赤也へと向けていた女の子の視線は、うれしそうだったし、赤也も女の子と握っていた手を離すことはなかった。

――― 年中、反抗期って感じよね。あの子。

困った顔で笑っていた母の顔が浮かび上がり、母も知らないであろう赤也の一面を見てしまった気がして、ちょっとむず痒い気持ちになる。そして、わたしも10年前は今の赤也と同じ中学生だったと思い出した。あの頃のわたしと今の赤也に、共通するような感情ってあったのかしら?思わず首を傾げてしまった時、ホームに電車が滑り込み、音を立てて開いたドアの中へ。
カタンカタンと規則正しい音を立てて走る電車の中、つり革を持ちながらぼんやりと、4歳だった赤也を思い出す。あの頃は、わたしのこと「ねぃちゃん」と呼んでくれてた。甲高い声が家中に響き渡って、家の中はひたすら明るかった。友達とケンカしたりして重い気持ちで家に帰ると、そこには小さな赤也が居て、家中を我が物顔でかけずり回る姿を見ていたら、ちょっと元気になったりもした。家族を大笑いさせたり、怒らせたりしていた赤也。まあ、あの子は、怒られる回数の方がダントツだったけれど、1日に何度「赤也っ!」と怒鳴る母の声を聞いただろう?
出張でよく家を空けていた父、丁度可愛い盛りの赤也にはめっぽう甘かった。「男の子は元気なのが一番だからな!」が口癖で、母とわたしはそんな父に向かって呆れた眼差しを送っていた。家の中は母とわたし、赤也の3人で居ることが多く、そう言えば、わたしも大切にしていた物を壊され隠されたりして、よく「赤也っ!」と追っかけていたのを思い出した。

――― も悪いのよ。赤也の手が届くところに置きぱっなしにしていたのだから。

うわーん!顔中真っ赤にして泣きじゃくる赤也とふてくされた顔をしているわたしに向かって、母はお茶を飲みながら淡々と言っていた。

――― 赤也も、お姉ちゃんに遊んで欲しいのなら、ちゃんと遊んでって、言わないとダメ。いいわね!隠したり、壊したりするのはいけないの!

母がピシャリと言えば、赤也は泣きやみ、隣にいるわたしを恐る恐るといった様子で見上げ、「ごめんなさい。ねぃちゃん、遊んでよ」と掠れた声で言っていた。そうして、わたしは赤也のお遊びに付き合ってあげている気持ちが薄れ次第に夢中になっていた。幼児向けのゲームとは言え、4歳の赤也に負けるのは姉としてのプライドが許せなかったんだ。当時、赤也の前では大人ぶっていた自分を思い出すとちょっとだけ、いたたまれない気持ちになるけど…。あ…。なんだ、ただ単にわたしが忘れてただけで、わたしと赤也の間にもちゃんと、思い出があるんじゃない。

「―― 駅。―― 駅」

降りる駅を告げるアナウンスにハッとなって、慌ててホームに降り立つと、視線の先に赤也と女の子の姿。女の子はわたしに背を向けていて、赤也はわたしの立っている方に身体を向けていたけれど、気付いていないようで、女の子を軽く小突いて笑っていた。その微笑ましいという言葉がぴったりな光景に自然とわたしの口角は緩む。
その時、不意に赤也の視線とわたしに視線が絡み合い、目を丸くした赤也に向かって、わたしはにやりと笑いながら親指をぐっと突き立てた。途端に、ぎょっとした顔をしたかと思うと、直ぐさまにやりと不敵に笑い返し、同じように親指を突き立ててきたから、上げていた手を下ろし、くるりと踵を返し改札口へ繋がる階段の方へと足を動かし出した。

「え、え!切原くん?どうしたの?」
「なんでもねーよ!、ほら、電車来るぜ」
「え、あ、うん。じゃあ、またね。今日は付き合ってくれてありがとう」
「おー!じゃあな」

そんな会話が背中から聞こえてきて、こみあげてくる笑いをこらえるために、口元を手で押さえつつ階段をいつものペースよりもゆっくりと降りていった。カツンとヒールが階段を叩き、あんなに面倒だった夕飯の支度すらも楽しく思え、カサカサと音を立てるビニール袋の音さえも音楽のように心地よくわたしの耳に流れ込んでくる。

――― さぁ、うちの弟くんは、帰宅後どうでるのかな?

あーあぁ、でもいつの間にか、ちゃんと男の子の顔するようになっちゃって…。ん?これじゃ、まるで母さんみたい。そう思いながらも、ふふっと小さな笑みがこぼれ落ち続けてしまう。







* * * * * * * * * *





baby brother :(末っ子の・未熟な)弟

080607:つむぎさんに頂いた日
080626:サイトアップ

わたしが書く赤也をお気に召してくださる(恐れ多い…!)真潮さんへと捧げる赤也と赤也のお姉ちゃんのお話です。お姉ちゃん視点で赤也を!とのお声に、じゃあ、真潮さんのリクエストで書きますとお伝えしましたら、快く了承してくださいまして、「普段はあまり構わない感じなんですが、落ち込んでテレビ観たりゲームしたりしてる時に、ただお茶を淹れてあげて傍に居たり、彼女と居る所を見かけてにやっとして親指立てたり(それに対して赤也はぎょっとするけど、照れ臭そうに親指立て返したり)、つかず離れずみたいな感じの姉なんてどうでしょう!」とのリクエストいただき、書かせていただきました。親指グッは絶対入れようと思っていたので、書けて心底良かったと思っています。照れくさそうじゃなく、不敵に笑わせちゃいましたが…(えへへ)。お気に召していただけたら、本当にうれしいです。いつもいつもあたたかなお言葉をかけてくださって、ありがとうございます!真潮さん!だいすきです!!(つむぎさんより)

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という訳で魂の姉つむぎさんから頂いちゃいました、わーーーーーい!!(狂喜乱舞)
もうね、つむぎさんの書く赤也が可愛くて可愛くて。それをうざいほどメールにしたためていた訳ですが(本当にいつもすみません……)、優しいつむぎさんは、じゃあリク受けますよ、とおっしゃってくださって。勿論遠慮せず(<お前……)、リク内容を申し上げましたらこんな素敵な赤也姉夢が……っ! ちょ、ほんと、幸せ過ぎるんですけど……! 何かもー可愛くないですか?! 常々(つむぎさんちの)赤也の姉になりたいとか、赤也の恋を見守りたいとか言ってた(書いてた)んですが、叶った……っ!
つむぎさん、本当に本当に有難うございました! 愛してます!