描きたい、と逸る気持ち。
それは光のように降ってくる。春の木漏れ日のようであったり、月明かりのように淑やかであったりと形を変えながら。
Paracelene
丸井くんは、光の塊みたいな人だった。テニスをしている時もだったけど、教室で友達と話している時も輝いていて、目が離せなかった。でも、臆病な私はその光の軌跡を辿るのが精一杯で、話し掛けたりするなんて、出来なかった。
丸井くんが私を良く思ってないんだろうなとは分かっていた。苦虫を噛み潰す、そんな表現がぴったりみたいに私を見ていたから。嫌うのは案外エネルギーが要るものだから、嫌いとまでは行かなくても、目障りだな、くらいには思っていただろう。悲しいことではあったけど仕方無いことかもしれない。合わない人間というのは居るものだから。それでも私は丸井くんに惹かれるし、こっそりとでいいから見ていたかった。
だからあの時、声を掛けられた時は驚いた。交わることはないと思っていたから、ささやかに傷付きながらも見ていたというのに。
実際、話してみた彼はやはりきらきらしていた。眩しくて、胸が一杯になって。あまり喋るのが得意ではないのに、いつも以上に受け答えが遅くなってしまった事を覚えている。
***
「それ、何描いてんの」
「ひかり、を」
「光? この前言ってた?」
覚えていてくれた事に嬉しくなりながら、頷いて筆を動かした。
無謀な私は光そのものを必死に捉えようとしていた。降り注いだ金色の瞬間。丸井くんが私を見つめて笑ってくれた瞬間、感じた光を。
私は、口に出したり、文章を書いたりは出来ない。その代わり、こうしてカンバスに色を乗せていく。こんなに私を突き動かす感情を、描かずにはいられないから。
光は、受けるだけでなく、自分の中からも溢れそうだった。苦しくもなるけど、それは温かで、胸の奥を優しく撫でる。
「……どうした?」
「え?」
「手が、止まってるから」
「あ、うん。……あの、丸井くんは、飽きないのかなって」
「飽きる?」
「絵を描いてる、だけだよ? 見てて飽きない?」
丸井くんは、私が絵を描き始めると黙ってそれを見ている。没頭すると周りが見えなくなるけど、ふとその事に気付いて慌ててしまう事が何度もあった。
「全然。は迷惑?」
「そ、そんなことないよ……」
傍に居るとどきどきするけど同じ空間に居られるのは嬉しかった。
「じゃ、いーじゃん?」
そう言って丸井くんは、に、と笑う。
「う、ん」
丸井くんと話すと、いつもそうだった。説明する必要は無いけど説明出来ない感情が私を包む。綺麗な光のかけらが、きらきらとからだに降り注ぐ。
「……光か」
呟くように落とされた言葉に、筆を動かす手を止め、彼を見た。微かに笑った丸井くんは、絵を覗き込みながら、言う。
「だから、きらきらして見えんだな」
「そう、かな」
「うん」
見ているだけで満足していた筈なのに、言葉を交わし、その視線を知ってしまってから、私は欲張りになった。こうして話すようになれただけでは飽き足らなくなった。
……どうしよう。
私、この人が、とても。
「さーって、そろそろ部活に行くかな。コーヒー、ごち」
「……あ、ううん、どういたしまして。……頑張ってね」
その言葉に、丸井くんは笑った。
……ああ、また。
ひらひらと片手を振りながら美術室を後にする丸井くんの背中を見送りながら、胸を押さえた。
降り注ぐ光のかけらは私に突き刺さる。
抜けないかけらは何時しか溶けて、胸を一杯にしていく。
溢れそうなそれは、私をカンバスに向かわせるのだ。
('05.9.21)
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