その光を、遠くから見ていただけだった。










揺らめく光の行く末は










という女子生徒とは国語の選択授業で初めて一緒になった。


教室に入ってきた瞬間、姿勢の良い女だな、と思った。おっとりと歩く割に背中は綺麗に伸びていて、それから、何となく、何となく、彼女の姿を目で追うようになった。移動教室で彼女の教室の前を通る時も、を探していた。

かと言って、話しかけたりしたことはない。クラスも違うし、選択授業での席も離れている、接点が何も無い自分がどうして話しかけられよう。俺に出来ることと言えば、そっと彼女を見ているだけで、週に一度彼女と会えるその時間を心待ちにしているだけ、だった。自分の不甲斐無さに呆れながらも。

授業が始まる前、はいつも本を読んでいた。見る度に違う本を開いている。そのタイトルをこっそり確認して、後で図書館で同じ本を借りてみた。女々しいことをしてしまった自分が情けなくもあったのだが、の見ている世界はこんなものなのだろうかと微かに彼女のことを知ったような気がして嬉しくもあった。

今までテニスのことしか頭に無かったのに、ふとした瞬間に彼女のことを考えている。人を好きになるというのは何と落ち着かないものなのだろうか。胸の奥でこそこそと何かが動き回っているかのようだった。だがそれは不快ではなく。あえて言うなら困惑、という感情だった。持て余してしまうのに、何故か放っておけない。の姿を目にする度に身動ぎするそれは、ひっそりと質量を増していく。



***



選択授業は丸井も一緒だった。丸井はの隣に座っている。授業中前方に居る二人は自然と目に入った。

「悪ぃ、修正テープ貸してくんね?」
「あ、うん、どうぞ」
「サンキュ、えーと……だっけ」
「そうだよ、丸井くん」

は丸井に向かってにっこりと笑った。自分が気軽に女子と話せるような性格ではないことは自覚していたが、人懐こい丸井を、これほど羨ましいと思ったことは無い。あの笑顔が自分に向けられることは無いのだろう、と思うと柄にも無く気落ちしてしまった。馬鹿みたいだ、彼女の動向で一喜一憂して。自然と出てくるため息を必死で噛み殺し、その日の選択授業をやり過ごした。


*


授業が終わり、自分のクラスに戻ろうとしていると、前を歩いていたが持っていたバインダからルーズリーフがはらりと舞い落ちた。は気付く様子も無く歩いて行こうとしたので、それを拾い上げる。

「……おい、……

初めて口にした彼女の名前は口調こそ乱暴になってしまったが胸の奥を柔らかく刺した。は肩を震わせ振り返る。

「……私?」

それに答えず、彼女が落としたルーズリーフを差し出した。

「……落としたぞ」

差し出したルーズリーフと、自分の手元を見たの唇の両端が綺麗な弧を描く。それはまるで、スローモーションで再生されるのを見ているかのようだった。は俺の手からルーズリーフを受け取る。

「ありがとう……真田くん」

その言葉で、自分の名前を知っていたというその事実で、鼓動が速くなった。顔に熱が集中しそうなのを振り切るように視線を逸らす。

「……構わん」
「じゃあ、」

一礼した彼女は、背中を向けた。そしてゆったりとした足取りで歩いて行く。その背中が小さくなるのを飽きもせずに見ていた。



今まで、遠くから見ていた。何処か自分とは違うものだと思っていた。でも違わなかった。俺を見て、俺の名を呼んで、彼女は笑った。
……夢ではないのか。
幻のように思っていた光は、現実のもので、触れられないほど遠いと思っていたのに、もしかしたら触れられるんじゃないか、と思ってしまった。胸の奥がざわざわと騒ぐ。

「……くだらん」

呟きは、自分自身にも響かず消えていく。


('06.9.21)







素敵仁王を頂いたお礼に、お受けしたリク真田・第一弾。
「カッコイイ」真田(笑)を目指したのですが何かへたれ……?
カッコイイ真田ってどんなんですかー?!