学生の本分は勉学や部活動に勤しむことであり、恋愛などという些末なことにうつつを抜かすべきではない。そんなものに惑わされ、心を砕いている暇など無いだろう。まだ学生の俺達にはすべきことが沢山あるのだから。
そう、思っていた筈だった。
クローズ・ユア・アイズ
……まただ。
の視線はいつも幸村の許で止まった。まるで見るべきものが幸村しか居ないように。微弱とも言える視線は密やかに送られる。うっすらと開いた唇は、幸せそうに微笑みの形を作り、呼吸を止めてしまったかのように幸村の姿を網膜に映している彼女は一体何を考えているのだろう。
……苛々する。
こんなことを考えてしまう自分が。
最初はただ喧しいクラスメイトだと思っていた。何が楽しいのか、些細なことでも騒ぎ、笑い転げる。正直、苦手な人種だと思っていた。席が隣になって話してみたらそうでもないことが分かったのだが、それでも苦手なことに変わりは無い。何故なら彼女の視線は俺を苛立たせる。低く、静かに、胸の奥を沸き立たせる。
***
幸村と付き合い始めた女子が幸村と帰宅する姿をはぼんやりと見つめていた。何の感情も映さない瞳はそうすることが当然とでも言うように逸らされることは無い。ひよこの刷り込みみたいに。その姿を見ているとの心が壊れていく音が聞こえるようだった。ああして飽くことも無く、瞬きすら忘れたように見ていられるのは何故だろう。叶わないことなど、明白ではないか。わざわざ自分を追い詰め辛くなる必要など、何処にも無い。痛みを進んで受け入れる必要など無いんだ。いつもみたいに馬鹿笑いしてればいいじゃないか。耳に障る笑い声を上げ、心底楽しそうに。
「……不毛だ」
その声にはこちらを見た。困ったように笑い、また視線を幸村の方に向ける。
「やっぱそう思うー? だよねえ……不毛だよ、こんなの」
「違う、お前では無くて、」
「ん?」
「いや……」
……俺は今、何を言おうとした?
不毛だと思ったのは、言ったのは、自分のことだった。
叶わない願いなど潔く諦めるべきだと思っていた筈だった。他人の感情は、自分の自由にならない。そんなこと、分かり切って、いるのに。
気付くと、の目を覆っていた。
「……見るな」
「さな、だ?」
どんなに泣き叫んでもお前の悲鳴はあいつに届かない。俺を切り裂き、空に消えるだけ。
「見るんじゃない」
「ど、どうして、」
掌に伝わるの体温は胸の奥を千切っていく。微かに震える声は耳を侵していく。
「そんな顔を、するからだ」
「……そんな顔って、何なの」
もうこれ以上、掻き乱されるのはご免だ。らしくない。似合わない。こんな風に心を揺さ振られ自分を見失いそうになるなど。揺るぎない自分でありたいのに。
「……真田?」
なのに手を離せないのは何故なんだろう。幸村の姿を目に映さなければいいと願うのは、願わずに居られないのは、どうしてなんだろう。
('06.9.21)
素敵仁王のお礼に、お受けしたリク真田第二弾。こちらは詳細なリクをお聞きする前に書き出していたものです(二つも押し付けた迷惑なわたくし)。
やっぱり「カッコいい」とは程遠くてあれあれ? という感じなのですが……。それにしても片想いを書くのは楽しいです(悪)。
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