「お前……」
「マジで?」

目の前の二人は哀れむような視線を私に向けた。










05.可 愛 い あ の 子 に く ち づ け を。










「何よ、何でそんな反応なのよ!」

私が苛々して言うと、仁王とブン太はため息をついた。

「いや……何ちゅうか」
「じゃあ、どういう反応すれば満足なんだよ? 嘘付けってか?」

ぷくー、とガムを膨らませながらブン太は言う。

「きー!! あんた達に話した私が馬鹿だったわ!」

だん、と床を踏み鳴らすと、ブン太が膨らませてたガムが割れた。

「……。真田を好いとうって本気なん?」
「本気じゃないなら何なのよ」
「本気なんじゃね……」

改めて確認して仁王は憔悴した顔をする。

「いやー……オレ、は柳の事好きだと思ってたぜ」
「ええ? どうして?」
「お前柳と仲良いだろー?」


それには二つ理由がある。
一つは私が柳のいとこと同じクラスだという事。
柳は同い年のいとこをとても大事にしていて、たまに様子を聞かれるのだ。あの達人が、と思ったけど、微笑ましい気分になってちょくちょく聞かれもしないのに話している。
もう一つは柳が真田と仲が良いという事。
柳の傍に居れば必然的に真田とも話せるという訳だ。真田はマネージャーの私より、柳を信頼している。むかつくけど、柳の方が頼りになるものね。
それに、二人きりでなんて話せない。真田が傍に居るだけで緊張するの、と言ってもこいつらは信じちゃくれないだろう。
でも、それが事実で、真実。
憎まれ口をきいて死ぬほど後悔する事を何度繰り返しただろうか。柳は私のそういう気持ちを知っているから、さり気なく協力してくれているだけなんだ。


「それについては何となく予想つくけど、何で真田なんじゃ?」

机に座った仁王は足をぷらぷらさせながら言う。そう言えばこいつも柳のいとこについては知っているのだった。何故か気付かれてな、と柳がぽつりと漏らした事がある。
侮りがたし、仁王雅治。さすが、詐欺師の名を欲しいままにしているだけある。

「え、格好良いじゃない」
「格好……良いか?」

訝るブン太を見据えた。

「文句あんの?」


それに、ああ見えて(って言うのも酷いと思うんだけど)真田は優しいのだ。
荷物を唸りながら運んでいた時も一番最初に見付けてくれたし(その後手伝ってくれたのは柳生だったけど)。私の具合が悪い時も、一番最初に気付いてくれたし(腹でも壊したのか、って言われた時は正直蹴飛ばそうかと思ったけど)。

でも、恋に落ちるのなんて理屈じゃないんだ。
気付いたら、真田の事を目で追ってる自分が居て。うまく話せなくなって。憎まれ口しかきけなくなって。


「あー、でも理由なんか無いよー。見るとどきどきするんだもん」
「真田にどきどきって……キモい」

心底嫌そうな顔をしてブン太が言ったので睨み付けた。

「てゆっかさー、好きな割に真田に対して言いたい放題言うよな?」
「つい口が……」
の口の悪さは今に始まった事じゃ無かよ」
「私だって分かってるわよ。可愛い事言いたいわよ」


でも。
男子テニス部員と、それに纏わりつくファン達と渡り合うには生半可な根性ではやってられない。実際何度か呼び出しくらったし。
……返り討ちにしてやったけど。


「そうか、真田かー」
「そうよ、真田なのよー」

ブン太の口調を真似て言うと、部室のドアが開いた。

「……何をやっているんだお前達は」
「休憩ー」
「おー」
「どうしたの、真田」
「丸井と仁王の姿が見えなかったから探しに来てみれば……たるんどる!」

真田は眉間に皺を寄せ叫んだ。仁王とブン太は慣れたもので、へーへーと生返事を返して立ち上がる。

「大会前の大事な時期にさぼるとは何事だ!!」
「あはー、仁王とブン太、怒られたー」
「お前もだ、
「えっ? 私?」
「お前もマネージャーなら、練習に戻るよう言うべきだろう」
「……はい」

しゅん、と項垂れると、ドア口で立ち止まっていた二人はにやりと面白そうな顔をした。

「じゃ、オレら行くから〜」
が話のあるて言いよったぞ、真田」
「にっ!!」

おう、と続けようとしたのにドアは無情にも閉められた。真田は私を見下ろして訊く。

「何だ、
「あ、う、」

だから信じて貰えないとは思うけど二人きりだとうまく話せないんだってば!

「や、あの、」
「話が無いのなら、行くぞ」

真田は背中を見せた。こんな状況なのに、その広い背中に触れてみたいと思った。

「まっ、さ、真田っ」
「何だ?」

くる、と振り返り、私を見る。
……ああ、どうしてこんなに胸がどきどきするんだろう。

「さ、真田って、好きな子とか、居る?」

途端に表情を曇らせたのを見て、失敗した、と思ったけどもう遅い。私は開き直って、真田が口を開くのを待った。

「そんな事を訊く為に残らせたのか」
「そ、そんな事ってねえ!」
「そういう話なら後にしろ」
「っ、やだ!!」

思わず真田の腕を掴んでいた。真田は困ったような顔をする。
……ごめん、そんな顔をされても愛しさが増すだけなんだ。
私の事で困ってる、なんて。
困らせたくない気持ちもあるけど、ちょっと嬉しいの。

、」
「だって、私真田が好きなんだもん! 後になんて出来ないよ!」
「は?!」

真田は顔を真っ赤にして、絶句した。私も、つられたように顔を赤くした。

「……あっ」

言っちゃった。言っちゃったよ、うっかり。たがが緩んでいたのか、好きだなんてストレートに。

、それは……」
「本当だよ!」

口に出してしまった事を消す術は無い。腹を括った私は胸を張って言った。

「だから、覚悟しといてねっ!」
「なっ……」

ぱ、と掴んでいた腕を離し、部室のドアを勢い良く開け、閉める。ドアに凭れ肩で息をしていると、ドアの外では仁王とブン太がげらげら笑い転げていた。

「もー、お前最高!!」
「告白する方が偉そうなんてお前くらいじゃ!!」

……盗み聞きしてたな。
ていうか、なみだ目になってまで笑うことなんて無いじゃない。

「しかもの顔真っ赤だし!!」
「えーん、笑うなー!!」
「いやー、いいもん見たのう」
「いいもんって何よー!」

噎せながら仁王は言った。

「やって、お前がそんな顔するて思うとらんやった」
「え?」
って意外と可愛いとこあったんだなー」

ブン太の言葉に鼻を鳴らす。

「あんた達に言われたって嬉しくも何とも無いよ!」

かちゃり、と背後のドアノブが回る。

「「「……あ、」」」

私と仁王とブン太の呟きが重なった。

、その、」

真田が顔を押さえ、出てくる。仁王とブン太は真田を見て吹き出した。
……だから、苦しくなるまで笑わなくてもいいじゃないってば。

「な、なに」

真田の顔は真っ赤のままだった。

「いや、その、俺も……」

聞き間違い? 幻聴?
何でもいいけど、俺も、だなんて都合の良いように解釈しちゃうよ?

「―――うわっ、!!」

私は真田に抱きついた。後ろで、わあっ、と仁王やブン太の歓声が上がる。

、はな、離せっ」
「やだー!」





「……抱きつくというより、電信柱の蝉のようだな」
「センパイ、それはあんまりじゃ……」

後から同じくマネージャーのに聞いたところによると。
柳と赤也がこんな会話を交わしていたらしい。


('04.12.26)






何でこのお題で真田……?(いまだに分かりません@2010)
小1時間ばかり問い詰めたい。ああ、真田好きな方ごめんなさい……(あと、仁王とブン太出張り過ぎ)。
そして、さりげなく柳ドリと繋がってたりします。