07.掴 ま れ た 腕










私は左腕を掴んでいる相手を見上げたまま動けなかった。苦しそうな表情で私を見下ろす赤也は口を開かない。痛いのは私なのに、どうしてそんな顔をするの?

「……痛いよ、赤也」

口にした言葉は震えてしまった。私達以外誰も居ない教室では息遣いさえも伝わりそう。

「何で?」
「何で、って……赤也が、」
「本気で嫌なら逃げればいいだろ」

冷たい言葉なのに、表情のせいで私は何も言えなくなる。いつもみたいに笑って、冗談、と口にする事を待っているのに。

、お前、何で気付かねえの」
「な、」
「分かってやってるんだったらタチ悪いよな」
「……何を、言ってるの」
「ほら、また」

ぎり、と掴んだ腕に籠められる力。

「い、痛……」
「なあ、何で?」

私は体も震えている事に気付いた。
―――どうして、どうして、どうして!
繰り返される疑問符で私の頭の中は埋め尽くされていく。何かが壊れようとしている。折角作り上げた砂の城みたいにさらさらと。

「気付けよ、お前も俺が、」
「言っちゃ駄目!」

赤也が苛々した口調で言うのを遮った。ふ、と力が緩み、私の腕はだらりと体の横に垂れ下がる。

「……分かってやってるんだ、やっぱり」

口の端を歪めて笑う赤也が怖くて私は後ずさる。その瞳は赤く染まっていた。

「サイアク」

間合いを詰められ背中が壁に当たった。近付いてくる赤也の胸を咄嗟に押す。ささやかな抵抗も空しく、赤也は両手を壁に当て逃げられなくした。

「……どうして、言おうとするの。友達のままでいいじゃない……」
こそ、何でそんな事言うワケ?」
「だって……」

赤也がいろんな人と付き合って別れるのを見てきた。来るもの拒まず去るもの追わず、というように。それならば、私はこの気持ちをひた隠そう、と。友達だったら別れずに済むんだから、と思った。彼女の事を話す赤也の傍で、必死で笑顔を作っていた。痛くても、友達でもいいから、傍に居たかった。

「もう、友達のフリすんのも、反応見るのも、限界」
「やっ……」

私の両腕を引き、抱き締める。

「オレは友達なんてポジションは嫌なんだよ」
「だ、って」

ひく、と嗚咽が漏れた。



耳元で囁かれた自分の名前が甘く耳の奥に溶けていく。目を閉じても頬に落ちる涙が拭われた。

「オレはお前以外欲しくないんだ」

驚いて目を開けると、さっきみたいに苦しそうな顔をしていた。
……ああ、両胸の間が痛い。
近付いてくる赤也の顔に、私はまた、目を閉じた。


('04.11.8)






赤也ってこんなですか……?(聞くな) でも、このお題は赤也以外考えられなかったのです。