「一番に、おめでとうって言うから!」
09.ぼ く ら は さ い ご の キ ス を す る
その宣言通り、零時を過ぎてすぐの電話は彼女からのものだった。
―――お誕生日おめでとう!
楽しそうな声で言うさんの声に自然と笑みが漏れる。
「有難うございます」
―――あのね明日、あ、違う、今日の放課後も予備校?
「いえ、今日はありません」
―――じゃあ、一緒に帰りませんか?
「……ええ、喜んで」
そう答えると、受話器の向こうでさんは嬉しそうな声で笑った。
***
学校帰りに寄ったカフェから出ると、少し肌寒かった。衣替えをして二週間以上経つが昼はまだ暑い。しかし、今は衣替えをしていて良かったと思う。
「比呂士くんの星座の天秤座は、もう見えないね」
彼女は上を向いたまま言った。その足元を見つめて、私は返す。
「そうですね。夏の星座ですから」
「うん。夏中、思いだしながら観測したよ」
「……そうですか」
ストレートな彼女の言葉に照れて口籠ると、さんも頬を染めて微笑んだ。そこはかとなく香る金木犀の香りの中、ゆったりとした足取りなのは、少しでも帰り着くのを遅らせたいから。それでも歩いていれば、何時か目的地に着いてしまう。彼女の家の前に着いた途端、ため息が出そうになった。そのため息を押し殺し、繋いでいた手をそっと離す。
「では」
「うん」
そう言ったまま、お互い動こうとしない。別れ難くて、家に入るまで見届けてから帰ろうと思っていたのだが彼女も同じ気持ちだったようで、忍び笑いを漏らす。
「な、何か帰りたくないね」
「……そうですね」
さっきまで繋いでいた手が、寂しかった。
「……小説で読んだんだけど、」
唐突にさんは話しだした。
「どんなに楽しい時間を過ごしても、今日を終わらせないと明日が来ないって、終わりが無いと始まりが来ないって、あったの」
小さく笑って、続ける。
「読んだ時は漠然とそんなものかと思ったんだけど、比呂士くんと居ると、いつもその話を思い出す。思い出して、明日を迎える為にって、思い切って帰る」
「……さん」
彼女の体を抱き寄せると、さんは私に寄り添う。屈んで顔を寄せると、答えるように目を閉じた。
今日最後のキスをする。今日を終わらせ、明日を迎える為に。
唇を離すと、彼女は照れ臭そうに笑った。
「……お誕生日おめでとう、比呂士くん」
「有難うございます」
繰り返される言葉は、何度聞いても飽きる事が無い。
「……じゃあ、また明日」
「ええ。また明日」
駅へと戻る為に踵を返す。ふと思い立って振り返ると、彼女はまだ門扉のところに立って私を見ていた。私が振り返ったことに気付いた彼女は笑って小さく手を振る。それに笑って手を振り返した。
―――また、明日。
('05.10.19)
柳生、お誕生日おめでとう!
作中のエピソードは新井素子さんの「ひとめあなたに……」から。強引にらぶらぶ(……)な話に持って行きました。
「星は、すばる。」のヒロインならば色々とストレートに言ってくれるに違いないと思ったので!
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