スライスされたフルーツは美しく、行儀良く、かつ大胆にカスタードの上に並んでいる。カスタードの下のきつね色の生地は見た目からもさくさくしてそうで、私は携帯を握り締めたまま、喜びで震えるかと思った。悩み抜いて選んだキャラメルと洋梨のタルトは、きらきらと輝いて見える。私は口許を緩ませ、携帯のカメラでタルトの写真を撮った。綺麗に撮れた、と顔を上げると、向かいに座ってそれを見ていた人物と目が合う。私はにっこりと微笑んだ。それは意識的にやったものではなく、自然と浮かんだものだった。





タルトよりも甘いもの










国光は腕を組んで困ったように私とタルトを見つめていた。

「美味しそうだね!」
「……幸せそうだな」
「うん!」

そうか、と何処か呆れ気味の返事も気にならない位、喜びでふわふわする。
……まさか国光がオーケーしてくれるなんて。
外観からして女子が喜びそうなこの店はタルトが有名なお店で、以前から来てみたいと思っていた。内装も外観同様素敵で、椅子に深く腰掛け私は店内を見回す。ケースに並んだ、こぼれそうにフルーツが乗ったタルトの数々。忙しそうに、でも何処か優雅に立ち働く店員さん。視線をテーブルに戻すと、カップに注がれた紅茶からはふわりといい香りが立ち上る。

国光は、買い物を終え、この店を提案した私に微かな難色を示したものの、結局は一緒に来てくれた。それだけでも嬉しいのに、甘いものまで目の前にしているものだから、テンションが上がらない訳が無い。フォークを手にタルトに挑もうとした時、国光の前にサーブされた無花果のタルトが目に入った。

「国光のも美味しそうー。うーん、そっちとも迷ったんだよね」
「そうか」
「ね、一口食べる?」

それを聞いた瞬間、国光はフォークをタルトに刺そうとしていた手を止める。

「何その沈黙」
「いや……」
「別に、はい、あーん、って言ってる訳じゃないし、」

あーん、の辺りで眉間に皺を寄せた国光に続けて言った。

「言ってみただけだったんだけど。いいよ別に、嫌なら」
「……嫌、ではない」

フォークを置いて、国光はカップを手に取る。口にするのを迷うように、目を伏せた国光を根気強く待っているとため息を一つついた。

「慣れてないだけだ」
「は?」

ゆらゆらとカップから上る湯気の向こうの国光は、乙女ちっくな店内に不似合いなほど渋面を浮かべている。

「俺は、回し飲みなどをしたことが無い。勿論、一口分け合うなどもしたことが無いんだ」
「え……、あ、あー」

以前聞いたことがある。兄弟が居るとそうでも無いが、ひとりっ子は回し飲みなどが苦手だということを。それに加えて、国光の雰囲気から、周りも誘えないだろうな、と思った。

「でも私、まだ手をつけてないし、折角なら違うのも食べてみたくない?」

苦手ならいいけど、と言い置くことも忘れず述べると、国光は思案した末、フォークを手に取る。

「…… 頂こう」
「や、本当に無理しなくてもいいよ?」
「構わない。お前も、ほら」

ずい、と無花果のタルトの乗った皿を私の方に差し出した。

「食べたかったんだろう?」
「……いいの?」

国光は微かに頷く。そうしてキャラメルと洋梨のタルトを一口、本当に一口切り分けて口に入れた。私も無花果のタルトを一口頂く。

「……あ、あんまり甘くなくて美味しい」
「そうか」

国光は相変わらずの仏頂面でフォークを口に運ぶ。

「美味しい? 大丈夫?」
「ああ。そこまで甘くないからな」
「そっか、良かった」

甘いものがあまり得意でない国光は黙々とタルトを片付けていく。負けじと私もタルトに手を伸ばした。焼けてほんのりと苦いキャラメルと洋梨が絶妙で、口にする度ににんまりとしてしまう。く、と小さく国光が笑ったので首を傾げると、さくり、と音を立てタルトを切り分けながら言った。

「お前は幸せそうにものを食べるな」
「そう?」
「ああ」
「うーん、でも幸せにもなるよ。好きな人と一緒に美味しいものを食べてるんだもん」

タルトに視線を落としたまま告げると、視界の端で国光の手が止まる。不思議に思って顔を上げると眉間に皺を寄せていた。

「どうしたの?」
「……何でもない」

そっと眼鏡のブリッジを押し上げながら国光は目を逸らす。その頬は何となく。
……赤い?

「国光、」
「何だ」
「ごめんね」
「……何を謝っている?」

国光はカップを手に私を見据えた。既にお皿の上は空になっている。

「あんまり甘いもの得意じゃないのに連れて来ちゃったから」
「そこまで甘くなかったから問題無い」
「でも、」
「でも、何だ」

顔赤いから、と呟くと何度目になるのか、再び眉間に皺を寄せた。
……国光って意外と表情に出るよね。

「これは関係無い」
「そう?」
「ああ。……タルトより甘いもののせいだ」

微かに口角を上げて国光が零す。今度は私が眉を寄せる番だった。

「何それ」
「何だろうな」
「気になる」
「気にしなくていい」

そう言って国光はカップに口をつける。私は疑問符を浮かべたままタルトを口に入れた。
……このタルトより甘いもの?
何だろう、見当がつかない。国光に視線を投げても素知らぬふりで紅茶を飲んでいる。その姿はとても様になっていて、似合わない、と思ったのが嘘みたいだった。
……ま、いっか。国光と一緒に、タルトを食べられたし。
最後の一口を口に入れて頬を緩める。舌の上で甘くほどけていくタルトみたいに、いつの間にか疑問符は消え失せていた。


('10.9.23)
('11.1.18)



再録にあたり名前変換を入れようとしたのですが駄目でした……。手塚は仲良しの人ほど「お前」とかで済ませそう。
ちなみにブログで公開してたものです。よしのさんとキルフェボンにて妄想したのを交換条件付で書いたものでした(白石書いて貰ったんだ!)。タルト美味しかったなー。あ、ブログにも書いたのですが、ひとりっ子云々は、そういう話を聞いたってだけで、そうだと言っている訳ではありません。