「どうして? ……どうして、仁王は私に酷いことばかり、言うの?」
その言葉を紡いだ唇が震える。は奥歯を噛み締め、必死で涙を堪えていた。
「私……何かした?」
「何も?」
「……だったら、どうして。だって、他の子にはっ、」
言いかけては止める。他の子には優しいくせに、か? 当然だ。わざとそうしていたのだから。わざと、以外に優しく振る舞っていたのだから。
「……泣けばいいんよ、お前なんか」
俺の言葉に彼女は目を見開いた。涙の膜が眼球を覆い、膨らんだ珠が弾けるように目尻に零れる。頬を辿る幾筋もの涙はブラウスに染みを作った。
「ひっ、ひどいっ……」
しゃくりあげながら落とした言葉に背中がぞくぞくする。そうだ、それでいい。心を揺らすのが俺の言葉だけであればいい。俺の事だけで頭が一杯になればいい。
――――たとえそれが負の感情でも。
の頬に触れると、彼女は体を震わせた。上下する肩も、涙に濡れた睫毛も愛しくて仕方ない。俺が微笑むと彼女は怯えたように体を退こうとした。
「……触らないでっ」
「嫌じゃ」
その腕を掴み、頬の柔らかさを確かめるように撫でる。見えない傷を付けるように。
「……も、やだっ、」
息を詰まらせながら涙を零す姿を見ていると不思議と満たされていく。狂ってる、そう自覚しながらも願ってしまう。一生消えない痕が、君に残ればいいのに、と。
('06.12.4)