流れ星のように、輝きだけ残して、君は。
流 れ 星
「一体……どういうことなんよ、白石」
「……俺に言われてもなぁ」
不動峰戦で勝利を収めた千歳は笑って、退部する、と告げた。
……負けた訳でもないのに、どうして。
呆気に取られていた私達を尻目に千歳は片手を上げて去って行った。白石はのんびりと続ける。
「ずうっと気になっとった相手と試合出来て、満足したんとちゃうの」
「そんなんで辞められるもんなん? テニスの為に検査とかまでしてた言うてたやないの……」
「せやから、俺に言わんとってって」
全然分からない、分からないことだらけ。いつも穏やかに笑うその外見とは裏腹にテニスに関しては貪欲、そう思っていたのに。気付くと、スコアブックを力一杯抱き締めていた。
「……千歳は」
「どっか行ってしもた」
「……うち、ちょっと行ってくるわ」
「アホ、今から試合始まんねんで。マネージャーのお前がおらへんかったら誰がスコアつけるねん、て――オイ、!」
白石の言葉を背に、私は駆け出した。
***
「……何でよ!」
突然聞こえた声に足を止める。そこには、探し回っていた千歳と、見覚えの無いユニフォームを着た女の子が居た。彼女は千歳の腕を掴み詰め寄っている。
「そがん怒らんでも……」
「怒っとるとやないと! どうして辞めたりしたとか聞きよると!」
千歳と同じような言葉から熊本の代表の子だと思った。そういえば、千歳が前に居た中学校も全国進出したと言っていなかったか。
「……ひょっとして、目のせい?」
「ん?」
「最後の方、見えとらんやったとだろ……?」
「……分かっとったか」
彼女は泣きそうな顔をして頷く。私は、分からなかった。小春が言っていたのを聞いて、初めて分かったのだ。両胸の間が痛む。咽喉を押さえつけられたみたいに息が苦しい。
「橘に、何て言うとよ……」
「桔平、怒るて思う?」
「怒るに決まっとるやろ!」
ついに彼女の頬を涙が伝う。千歳は笑ってその涙を拭った。
「何でお前が泣くとや?」
「千歳は、いっつもそう。何でも一人で決めてしまうとやけん……」
「誰かに決めてもらうもんでも無かろうが」
「そうけど!」
肩を震わす彼女の頭を千歳は宥めるように撫でる。その優しい仕種を、今まで見たこともないような笑顔を見せる千歳を、見ていたくなくて踵を返した。
千歳は初めて会った時からそうだった。目の前に居るのにひどく現実感が無くて、掴み所も無いのに何故か気になって。……見て、居たくて。
今なら分かる。千歳はここではない、何処か遠くを見つめてた。
テニスのことも、たぶん、誰かのことも。
「あー、ちゃん、おったあ!」
「……金ちゃん。何しとんの、試合始まるで」
金ちゃんはぷうと頬を膨らませた。
「それはこっちのセリフや……って、千歳か、あれ?」
私の後ろを見て目を丸くする金ちゃんに頷く。
「うわ、めっちゃ生意気ー! 女とおるやん!」
「……行こ、金ちゃん」
「え……でも千歳が、」
「あいつは退部した人間や。もう、関係あらへん」
「せやけど……ちゃんは、それでええんか」
金ちゃんは私を窺うように見上げた。私はにっこりと笑って見せる。
「ええも何も無いよ? ……ほーら、早ぅ行かんと白石に怒られんでぇ」
「そうやった!!」
流れ星に願いをかけようとしても、流れ星はすぐに消えてしまう。
その一筋の輝きだけを、残して。
千歳は私にとって流れ星だった。目を閉じても残る軌跡に、胸に落とされた痛みに、少しだけ泣きそうになったけど、堪えるように奥歯を噛み締める。
先を行く金ちゃんの小さな背中を追いかけるように、私も足を踏み出した。
110.流れ星
('06.8.10)
('07.3.5)
「青春あまったれクリーチャー」様に提出させて頂いたものです。
じんわりとせつない歌だなあと思います。
「ラーメンたべたい」と微妙に繋がっていたり(ヒロイン違いますが)。
当時はまさか本誌であんなことになるなんて思ってなかった……!
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