1.CB
「、ちょっと」
ランニングから帰ってくると、部長に呼ばれた。
「はい?」
「今度の練習試合、シングルス3で出てもらうから」
「……はい!」
私の返事に部長はくすりと笑う。
「何時もそういう風にしていればいいのに」
「……嬉しい時しか笑えませんよ」
部長の隣に居た副部長も、微かに笑って言った。
「はそういうところ、融通が利かないよね」
「駄目ですか」
「私達はいいけど……あんまり刺激するなってこと」
わしわしと私の頭を撫でながら副部長は言う。レギュラーではない三年生や同学年の子達からは当たりがきつい私のことを仄めかしながら。
レギュラーである先輩達は、生意気な口を利いても大目に見てくれる。それは、実力さえあればいい、と思っているからだと思う。私個人の性格など二の次。必要なのは常勝立海大附属の名に相応しい実力なのだ。先輩たちのそういう実力主義なところが好きだ。だから、レギュラー陣を尊敬しているし、逆らわない。
問題なのはそれ以外の部員達。四月に入部した一年生はともかく、同学年とレギュラーではない三年生から、私は嫌われていた。陰で「L」と呼ばれていることも知っている。二年のくせに態度が大きいから、だそうだ。全く、くだらない。そんな暇があったら自分を磨けばいいのに。
***
部活終了後、顔を洗っていると後ろから声を掛けられた。
「――ねえ、Lって呼ばれてるんだって?」
のんびりした口調と声で、相手が誰か分かってしまって思わず目が吊り上がりそうになる。私は一つ、深呼吸して応えた。
「……幸村、何か用?」
「だから、それを訊きに来たんだ」
私は乱暴にタオルで顔を拭ってため息をつく。
「そうらしいわよ。面と向かって言われたことはないから分からないけど態度が大きいからLですって。……馬鹿みたい」
「うーん、でも俺は違うと思うな」
「何が違うのよ」
幸村は面白そうに笑って言う。
「ルーシーのL、なんじゃない?」
意味が分からなくて眉を寄せたまま見つめ返すと幸村は、じゃあ、と手を振って、現れた時と同じ唐突さで立ち去った。
……あいかわらず、食えない男。
幸村は、強豪揃いの立海男子テニス部で一年からレギュラー入りしている。穏やかそうな外見とは裏腹に、鬼のような強さを見せた。上級生だろうと完膚無きまでに叩きのめす。入部した時は憧れていた。彼のように、強くなりたいと。
二年になってレギュラー入りを果たした時、幸村は笑っておめでとう、と言ってくれた。嬉しかったけど、口惜しくなった。だって私はまだ彼の居る位置に辿り着いていないのだ。ようやく、入り口に立てただけで。
それに気付いてから憧れは容易く苛立ちに変わった。完全な僻みだ。自分でも分かってる。だけど焦りと羨望で捻じ曲がった心は簡単に素直になってくれない。話し掛けられても喧嘩腰になってしまう。正直目障りだった。私に近寄らないで欲しい。苛々する自分は嫌なのだから。
幸村の言葉は、簡単に私を揺らすのだから。
('07.1.29)
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