トラフィックアクシデント*6
屋上から校庭を眺めていたら侑士に名前を呼ばれた。笑って返事をすると、ほんの少し眉を寄せて見せる。
「……なあ、俺にしとき」
「え?」
「俺と、付き合おや」
……どうしてそんな事を言うの。
私は目の前に立つ人を見上げた。端整な顔立ちが今日は余裕が無いように見える。
「迷惑?」
「迷惑、では無いよ。でも……躰だけの方が気楽でしょう?」
「普通の女は言わんよ、それ」
ふいに泣きたくなった。私は何とか唇の両端を上げる。
「私、侑士が好きよ」
侑士は目を見開いた。堰を切ったように口から言葉が溢れ出る。
「侑士と会った時から、他の人と寝ようと思わなくなったもの。侑士とだけ、会いたいと思うようになってしまったもの」
するすると出てきた言葉に一番驚いていたのは私だったろう。思いがけず本心を見せてしまって失敗したと思ったのに口は止まらなかった。
「だから……そう言われて嬉しいけど、つらい。特別に想うのは、怖いよ。いつか失うくらいなら……要らないわ」
涙が零れそうになって背を向けた。
特別なものは、要らない。それを持ったら怯えて暮らさなきゃいけなくなる。
……だってもう……失くす事に耐えられないの。
どうしても侑士がいいと思いながらも受け入れるわけにはいかない。奥歯を噛み締めて涙を堪えていると、後ろから抱き締められ、頬に口付けられた。ふわりと漂う侑士の香りに私は倒れこみたい衝動を必死に抑える。
「今までと同じで、いいじゃない」
「嫌や。絶対付き合う」
強情に言い張る侑士に困り果てる。
「付き合ったら嫉妬深くなるかもしれないよ? 泣いて縋ったりするようになるかもよ? ……侑士の嫌いな、面倒臭い女に。ねえ、一時の迷いで見失わないで。この関係を駄目にしないで。侑士は愛情と勘違いしてるだけで、それは……執着じゃないの?」
……お願い、そうやな、と頷いて。
冷たい瞳で声で私の想いを粉々にしてくれればいい、と思ったのに侑士は引かなかった。
「執着と愛情の違いて何? 好きな女に執着すんのに愛情は無い言うんか?」
「っ、それは……」
私は、口籠もり目を伏せる。意外な一面もこの気持ちを促すだけで私はどうしたらいいのか分からなくなる。諦めて、そして諦めないで。相反する気持ちで目が回りそう。
「面倒でも、うざくなっても向かい合うたるわ。……好きや、」
……え?
好き、という言葉に躰が震えた。
「どうしてそんな事言うの……」
額を侑士の胸に押し付け呟く。そうしないと、立って居られなかった。
「そんな事言うと、離れられなくなるじゃない……」
「離さんつもりやから、安心せえ」
侑士の言葉に苦笑が浮かぶ。
「つもり、っていうのが侑士らしい」
彼はその言葉に困ったように笑った。困っているというのに、どうしようもなく幸せそうに、見えた。
「じゃあ、覚悟してくれる? 私、結構独占欲強いんだよ?」
「なんぼでもしたる」
そう言って寄せられた唇に目を閉じる。触れるだけのキスは、初めてキスした時のように胸がときめいた。
('06.2.13)
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