落花流水・4
高砂から戻りながら、俺は会場を見渡した。気になって、でも、わざと見ないようにしていたテーブルを見る。
そこには、さんが居た。
紺色の、きらきら光る素材のノースリーブのワンピースに、真珠のネックレスとピアスを着けたさんは、グラスを手に同じテーブルの人と笑い合っていた。
……少し、痩せたんじゃないだろうか。
薄手のショールを纏った肩は、記憶の中の彼女のそれより薄くなったように見えた。
「……赤也、どうした?」
「あ、いえ。仁王先輩が言ってたんスけど、先輩方も二次会行きますよね?」
「ああ、そのつもりだが」
「そッスか」
俺は席に着いてグラスのビールを呷る。立て続けに摂取したアルコールは頭の芯をぼやけさせる。感傷的になってるのは、そのせいだと思った。
* * * * *
「……好きなんです」
「え?」
さんは目を丸くして俺を見上げた。
「だから、さんが」
「えっと……」
「俺じゃ駄目ですか?」
「駄目とかじゃなくて……私、二歳も上なんだよ?」
さんは、俯いた。俯いた拍子に髪が肩から零れ落ちる。さらさらと音を立てそうな髪に触れたいと思った。
「そんなの、関係無いでしょう。俺が聞きたいのは、俺を好きか嫌いかって事です」
強気で言った割には心臓が壊れそうだった。緊張して手がひどく冷たい。永遠に続くんじゃないかと思った瞬間、言葉が落ちた。
「……好きだよ。言うつもりは無かったけど」
「え」
さんを見ると、くすぐったそうに微笑んだ。
「私も、赤也くんが好き」
* * * * *
さんとは部活が始まって、なかなか会えなかったけど、想いが薄れる事など無く、むしろ募るばかりで、俺自身驚いていた。溺れるみたいに恋をするなんて、以前の俺からすれば考えられない。
でも、ひどく幸せだった。めろめろになっている自分も悪くない、と。そう思っていたんだ、あの日まで。
* * * * *
「明日?」
「そう。部活早く終わるんで待ってて貰えませんか?」
「明日は、ちょっと」
言いにくそうに彼女は言う。
「何か用事あるんスか」
「うん。ごめんね」
「いや、気にしないでくださいよ。じゃあ、またの機会に!」
申し訳無さそうに言ったさんに笑って頷いて見せた。
「赤也くん」
「あ、さん」
図書館に寄ってみると、カウンターにはさんが居た。何でもさんは司書を目指しているらしく。ほぼ毎日のように司書の先生の仕事を手伝っていた。
「と待ち合わせ?」
「いや今日は、」
「あ、今日は予備校か。私はそのまま上に上がるけどは外部受験だから忙しいよね」
「……え?」
俺は目を瞠った。さんはそんな俺に気付かず続ける。
「看護士かあ。大変そう」
「何の……話ッスか」
さんはきょとんとした顔をする。
「だから、の進路の話」
「そう、なんですか……」
俺の言葉にさんは、しまった、という顔をした。
「えと、から、聞いてない?」
「聞いてないです」
「ああ……」
さんは頬を両手で押さえて呟いた。
―――外部受験だから忙しいよね。
―――看護士かあ、大変そう。
どうして、そんな事を本人以外から聞くんだ。
どうして、俺に教えてくれなかったんだ。
「赤也くん、あのっ、」
「さん、教えてくれて有難うございます」
「あ、うん。でもね、」
「じゃ、俺部活ですから」
おろおろするさんを残して俺は図書館を出た。さんに気を遣う余裕なんて無かった。
('05.5.24)
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