自分の部屋でごろごろしながら、壁に貼り付けた試験の予定表を見上げた。明日は国語と英語かー。まぁ数学に比べりゃ楽勝じゃん!へへっと思いつつ、隣の部屋でゲームの取り合いでもしてるんだろう弟達の声が聞こえてくる。
いいよなぁ、あいつらまだ、試験期間なんてねーもんな。テストで赤点取っても、怒られるのは母ちゃんだけだしよ。ほんと、お兄ちゃんは大変。なんて思いつつプッと吹き出してしまう。
よっこらせっ!と起き上がった拍子に向かいのんちが目に入った。…あいつ、みょうに真面目なとこあるから、今頃、せっせと勉強してんだろうな。ご苦労さん!
机の上にある英語の教科書を開いて、昼休み仁王から聞いた、山かけの部分だけ端を折った。仁王ってこーゆーのよく当てるよな。うんうん。持つべきものは、山かけのうまい友達だ。
そういや、仁王のヤツ。俺がを好きじゃないのか?みたいなこと言ってたなー。マジ、なんでそうなるのか、わっかんねーよな。そりゃ、ここ最近、告られても全部丁寧にお断りしてっけどよ。それだって、部活最優先からだ。面倒つーのもあるけどな。ほんと、女ってうっせー時は、うちの母ちゃん以上だ。最初の頃は、可愛いって思ってたりもしたけど、だんだんうざくなんだよな…。ほんと。
…しっかし、のヤツ、告白されるなんてやるじゃん!
ガチャガチャと、ノックもせずにドアが開いて、驚いて見ると、末っ子がむすっとした顔で立っていた。
「んだよー。脅かすなって」
「にーちゃん!聞いてよっ!コウちゃんがさー」
…また、ケンカかよー。ったく、しゃーねーなぁ。おいでおいでと末っ子を手招きすると、きらきら目を輝かせて俺の部屋に入ってきた。さっきまで枕代わりにしてた、ビーズクッションの上にボスッと音を立てて座った。
「で、何でケンカしたんだよ?」
俺が聞くと、末っ子は思い出したのか、頬を膨らませ隣の部屋のある壁の方向を睨みつけた。ほんと、年子のせいか、こいつら一日に一回以上はケンカしってからな。つっても、俺に文句を言うくらいなんだから、今回はでけぇな、こりゃ。
「…ひどいんだよ。コウちゃんさー。オレにちーちゃんと遊ぶなって、言うんだ」
「…ちーちゃんって、スイミングが一緒のか?」
「そっ。さっきさ、今度、ちーちゃんちに遊びに行くんだって言ったら、急に怒ってさ、絶対行くな!とか言って。オレがなんでだよっ!って聞いても、絶対ダメ、行くな。しか言ってこねーの」
おーぼーだよっ!とビーズクッションをばふばふ叩く末っ子を眺めながら、隣の部屋できっと同じような顔をしてるコウの顔がポンと浮かぶ。
…まぁ、なんてわかりやすいのなー。
ポンポンと末っ子の頭を撫でると、叩く手を止めて、不安げな顔で見上げてくる。
「なんで、コウちゃん。あんなに怒ったのか、わかんね」
「…うん、あれだ。その、ちーちゃんちに行く時は、コウも連れて行ってやれよ」
「えー!やだなぁ。コウちゃんさー、なんでか、ちーちゃんの前だと、かっこつけんだよな。オレ、それ見てると、なんか、恥ずかしくってさー」
思わずブッと吹き出して、腹を抱えて笑ってしまった。げらげら笑ってる俺を、「に、にーちゃん?」と驚いた顔で見てる末っ子。あぁ、ちょーわかりやすいなぁ、コウのヤツ。ま、男のプライドってあるから、知られたくねーけど、行かせたくもねーって事じゃん。独占してーんだよな、ちーちゃんを。
「なー。丸井、今度、お前んちに遊びにいってもいいか?も来るんだろ?」
ふと、甲高い声が俺の頭ん中から聞こえてきた。
…な、なんだ。これって…。
「…にーちゃん、どしたの?」
「…あっ、なんでもねーよ。とにかく、コウには、一緒に行こうって言ってやれよ。そうしたら、あいつ機嫌直ると思うぜ」
えー。と不満そうな顔をしてる末っ子を「にーちゃんは、試験勉強があるからよ」と言って部屋から出した。
一人になって俺はベットへと寝ころんで、さっき急に聞こえてきた声を思い出そうとして、目を閉じた。
真っ暗な視界の中、頭ん中に小学校の教室が浮かび上がり、休み時間かなんかに数人と喋っている小四ぐらいの俺がいる。
「そういやさ、丸井って1組のと仲いいよなぁ、たまに廊下で話してたりするだろ?」
「あーあいつんち、俺の向かいなんだ。仲いいっつーのか?」
「へー、そっか。一緒の町内なんだ」
「仲いいんじゃね?俺ら、他のクラスの女子と話ししたり、しねーしよ」
「へぇ!そんなもん?まぁ、何かと助かるぜー、忘れ物した時とかさ、たまになら宿題とか見せてくれるしよー」
「マジでっ!あぁ、いいなぁ。夏休みの宿題とか、ちょーめんどーだもんなぁ」
だよなぁって笑いあっていると、話していたヤツの一人が急に黙り込んだ。なんだ?腹でもいてーのかって思ったけど、他のヤツがゲームの話をしだしたから、それに気を取られてしまった。
「なー。丸井、今度、お前んちに遊びにいってもいいか?も来るんだろう?」
ゲームの攻略方法に聞き入ってた俺は、最初、何を言われたかわかんなくて、マジマジとそいつの顔を見てしまった。そいつは、ちょっとうつむいたかと思うと、直ぐに顔を上げて口を開いた。
「だから、お前んちに遊びに行ったら、も来るんだろう?」
「おぉー!お前、1組のが好きなのかよっ!」
俺が口を開く前に違うヤツがそいつを小突きだして、そいつはムッとした顔をしながらも、俺を真っ直ぐ見てくる。
その視線になんだか、腹のあたりがムカムカしてきて、なんだよっ!俺をダシに使う気かよっ!っていうのと、も一つ違うムカムカ。むしろ、そっちのムカムカの方がじわりじわりと体に広がって、すっげイヤな気分させられた。
「こねーよ。大体、女のあいつと、いつまでも二人で遊んでられるかよっ!」
どうでもいいことみてえに言い切ると、そいつはちょっと傷ついたような顔をして、「そっか、わりぃ」って謝ってくれた。けど、俺のムカムカはその日、寝るまで続いてたんだ。
……なんで、今まで忘れてたんだろ。つーか、俺、ちょー忘れっぽくね?
あのムカつきって、今、思えばコウの独占欲と一緒じゃねーのか?って!待て、なんで俺がに独占欲を感じんだよ…。あいつは単なるお向かいさんじゃん。な、なんで、こんなに心臓がバクバクいってんだよっ。止まれよっ!
思わず、力一杯に左胸を叩けば、ボスッと鈍い音と一緒に痛みが広がる。
――、好きなひとがいるって言って断っとったし。
仁王の声が俺の頭ん中を占領する。あいつの好きなヤツって誰だよ?
叩いた痛みだけじゃない、内側から全身を喰うように広がるだけだ…。そんでもって、なんでこんなに俺が息苦しくなんだよっ!
っんだよっ!くそっ!!頭の下にあった枕を壁に向かって投げつけた。
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