さん」
「……比呂くん? どうしたの?」

駆け寄ってくる彼女のシューズの色は自分のそれと違う色をしている。
それは、つきり、と胸を痛ませた。

「これ、さんのお母様から頼まれました」
「えっ?! わー、忘れてたんだ。有難う、比呂くん。いつもごめんね」
「……いいえ」

そう微笑む顔は幼いのに、差し出した手も小さいのに。どんなに頼りなくてもつむじが見えるほど小さくても彼女は一つ上なのだ。決して追い抜くことは無い。違うシューズの色、机を並べ同じ授業を受けることの無い事実。数え上げればきりの無い事柄は重くのしかかり、迂闊に手を伸ばせないでいた。














二人で居てもわたしが年上に見られたことは無い。だが、例え比呂くんの方が落ち着いた口調をしていても、見上げるほど身長が高くても、わたしが一学年分余計に生きている事実は無くならないのだ。小学校、中学校と比呂くんを置いて卒業する度に嫌が応でも自覚した。わたしの方が年上なのだと。

もっと年を取れば一歳差なんてあまり関係無いのかもしれない。だが学生時代の一歳差は大きい。越えられない、高い壁だ。努力すれば叶うこともあるだろうけど、努力したってどうにもならないこともある。

幼い頃のままの呼び名を許容してくれるのは優しい性格の為だと知っている。比呂くんも、わたしも、周囲からからかわれることになろうと、わたしはそれを改める気は無かった。幼馴染み、という唯一の繋がりなのだ。それが無ければこうして話すこともままならないだろう。優しい比呂くんはそれを振り払えないだろうという考えは甘えですらない。狡猾で醜い、わたしのはかりごとだ。

些細で脆い、吹けば飛ぶような繋がりでも縋るしかないではないか。
だって、わたしがこうして日常を過ごしている間に比呂くんに好きな人が出来るかもしれない。わたしが知らないだけで、もう居るのかもしれない。胸が圧し潰されそうな想像は易しく涙を誘う。かと言って告げる勇気は持てなかった。気不味くなりたくない、なんて言い訳だ。ただ、怖かった。比呂くんに拒絶されることが。さん、と笑ってくれなくなることだけが。





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('08.6.24)