……何ですかね。
仁王くんを探しに訪れた屋上での事だった。





星は、すばる。 1・アルキオネ





目の端で何か光った気がして近付いてみると女子生徒が仰向けになって寝ていた。晴れているとは言え冬空の下、寒い事に変わりは無い。それなのに、彼女は身じろぎもせず熟睡していた。
……こんな所で。
彼女の周りにはノートや教科書やプリントが散乱していた。散らばったそれらを集め、ペンケースを重し代わりに乗せる。散乱した物の中には星座早見盤があった。
……さっき光ったのはこれですね。
使い込まれたそれを手に取り、眠る彼女を見下ろした。起きる気配の無い彼女を呆れて見ていると5限目の予鈴が鳴る。逡巡した末、屈み込み彼女の肩を揺すった。

「あの、5限目が始まりますよ?」
「ん……」

小さく呟きを漏らし彼女はゆっくり目を開ける。私の姿を認めると目を見開いた。慌てて身を起こし髪を整える。

「……私、寝てたの?」
「そのようですね。もう少しで5限目が始まります」

彼女は頷き、くあ、と口を手で覆いながら欠伸をする。私は立ち上がり制服に付いた砂を払った。彼女は、動かない。

「……行かないんですか」
「うん、レポート間に合わないから」
「レポート?」
「放課後までに提出なの。あと少しで書けるから」
「では、私は失礼します」
「うん。……有難う柳生くん」

にこ、と笑う彼女に一瞬虚を衝かれたが一礼してその場を離れた。
……まあ、否応無しに名前は知られていますからね。
三年生が引退し、高校でもレギュラーになった。テニス部レギュラーという事は私の意志にお構い無しで纏わりつく。ドアを開け振り返ると彼女はシャーペンのノックする部分で唇をなぞりなから考え込んでいた。


* * *


「仁王くんは」

仁王くんのクラスに向かい問う。

「え、もう帰ったけど」
「……そうですか」

予想が付いていたとはいえ嘆息した。
……彼女に会いに行ったのでしょうね。
野暮な事はしたくないので、そのまま部活に向かおうとした。低い位置に軽い衝撃を感じ立ち止まる。

「あ、ごめんなさい」
「いえ、こちらこそ」

私の横を擦り抜け外に出ようとしたのは、屋上で会った彼女だった。思わず息を呑む。彼女が通り易いよう、体をずらし道を作った。通り過ぎた瞬間、甘い匂いに混じって嗅いだ覚えのある異質な匂いがした。彼女は背を伸ばし歩いて行く。自然とその背を追い掛けるように歩を進めた。テニスコートに向かうには階段を降りなければならない。しかし、彼女は階段を昇っていく。それで、さっきの匂いの正体を思い付いた。あれは理科室でよく嗅ぐ匂い、硫黄の匂いだと。


('05.1.14)


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