星は、すばる。 7・マイア
「あ、こんにちは、柳生くん」
授業が終わって直ぐ理科室に行ってみると、さんはマフラーを巻いて屋上に出る準備しているところだった。
「今から、ですか」
「うん。柳生くんは部活行かないの?」
「ええ、行きます」
そう言うと彼女は不思議そうに私を見上げた。まさか顔を見に来たと言う訳にも行かず、口籠る。
「何か用があった?」
黒い机、整然と並ぶ実験器具、空気に含まれる薬品の匂いは呼吸の邪魔をする。―――思考すらも、惑わせる。
「……貴女が、好きです」
何か言わなくては、と思って口を開いた時に出たのはそんな言葉だった。
「え……」
慌てて口を押さえたがもう遅い。さんは瞠目した後、困った顔をした。
……そんな顔をさせたい訳じゃなかったのに。
「すみません」
「何で謝るの……?」
「困らせてしまったようなので」
「違う、そうじゃなくて、」
「……すみません」
「待って柳生くん!」
身を翻そうとしたら腕を掴まれた。
「あの、」
彼女は俯いて、言葉を切る。それだけで胸が躍った。柔らかい指が腕に食い込む感触さえも愛しかった。
「……今言ったの、本当?」
「……はい。でもお気になさらないでください」
俯いた彼女の白いうなじを見下ろしながら言う。
「やだ」
「は」
「気にする」
「……さん?」
「だって嬉しいもの」
さんは顔を上げ微笑む。
「夢みたい、好きな人に好きって言って貰えるなんて」
少し掴む力を強めて彼女は言った。その言葉で頭が真っ白になった。さんの指が震えているように感じるのは自惚れだろうか。頭の芯が痺れてうまく考えが纏まらない。
「……さん」
「え?」
「今、何とおっしゃいました?」
「私も、柳生くんが好きです」
照れたように言った彼女を抱き寄せた。
「や、柳生くん!」
「すみません」
柔らかい体は予想以上に頼りなく力を籠めれば壊してしまいそうだった。伝わる体温に、鼓動に、息遣いに、心臓が早鐘を打つ。遠慮がちに、私の背中に触れた手の感触に眩暈がしそうだ。
「さんが、好きです」
「……嬉しい」
さんは私の胸に頬を寄せ、くぐもった声で答えた。
骨が軋む程抱き締めたい衝動に駆られたが、僅かに力を籠めただけに止める。髪に顔を寄せると甘い匂いが鼻をくすぐった。
「……柳生くん」
「はい」
「ちょっと、苦しい……」
「ああっ、すみません!!」
慌てて体を離すと、彼女は、は、と大きく息を吐く。
「柳生くん、謝ってばかりね」
「……はあ」
そう言って、くすくす笑う彼女の耳も赤く染まっていた。
「……今日も屋上に行かれるんですよね」
「うん」
「では、そこまでご一緒します」
さんに手を差し出すと彼女は笑って私の手を取る。初めて触れた手は、華奢で、温かくて。
壊さないように、握り締めた。
('05.2.10)
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...reprise
すばる=統ばる。集まってひとつになる事。プレアデス星団の和名。
乙女ちっく(笑・書いた自分がウケてどうする)連載にお付き合い頂き、有難うごさいました。
以下、蛇足です。
「星は、すばる。」という文章を初めて知ったのは、枕草子からではなく、日渡早紀さんの、同名の短編集からでした。天文好きの日渡早紀(作者様と同姓同名なんです)が主人公の短編集があるのです。続編で「無限軌道」(今は二つを合わせた文庫が出てます)。
で、ずっとタイトルにしてお話を書きたいと思っていたのですが、柳生で話を思いつきまして。
サイト開設した頃からずっと考えていて、ようやく形にする事が出来ました。思ってた以上に乙女発言の多い話になってしまって、書きながら砂吐きそうでした(私はこんな乙女発言はしませんよー)。
ちなみに各話のタイトルはプレアデスの七姉妹の名前です。プレアデス星団の、星の名前でもあります。なので、どうしても7話完結にしたかったのでした(しかし七姉妹、マイア、と来ると、○ルソナ2を思い出します)。
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