けたたましく鳴りだした目覚まし時計を腕だけ出して止めた。起き上がらず柔らかい布団に包まり、溶けそうな眠りと現実の挾間でたゆたっていると、階下から声が聞こえてくる。
―――おはよう。今日もまだ寝てるのよ。
―――あはは。やっぱり。
―――悪いんだけど起こしてきてもらえる?
―――はい。
そうして階段を上がってくる足音を聞きながら、また目を閉じるのだ。
優しい手が、おれの頭を撫でるまで。
めんない千鳥***1
足音はおれの部屋の前で止まり控えめなノックの後ドアが開く。ひたひたと足音を立てて近付いてきた人物はかきまぜるようにおれの頭を撫でて囁いた。
「ジロちゃん、起きて。遅刻しちゃうよ」
「んー……、もう少し」
「駄目。朝ご飯食べる時間無くなるもん」
「じゃあ食べない」
「またそんな事言うー」
囁いた声の主は小さく笑っておれの両腕を掴み引っ張り起こす。
「ほら、起きた」
「んー……。……おはよう」
「おはよう」
くっつきそうな目蓋をこすりようやく目を開けるとが微笑んでいた。
は隣家に住む幼なじみで、近所でも評判のしっかり者だ。学校では生徒会書記もやってるし、成績も良い。そのは、毎朝同じ学校に通うおれを起こしに来て一緒に登校する。幼稚舎の頃から変わらない朝の光景。
もたもたと着替えて階下に下りるとがトーストにバターを塗ってくれた。
「ほら、早く食べなきゃ朝練に間に合わないよ」
の言葉に母が嘆息する。
「いつもごめんなさいねー、ちゃん。慈郎に合わせて早起きして貰って」
「いいえー。私も生徒会の仕事があるし」
「、」
「なあにジロちゃん」
の名を呼ぶとは優しく笑う。同い年なのにお姉さんみたいだ。誕生日はおれの方が早いのに。
「帰りも生徒会?」
「うん」
「じゃあ一緒に帰ろう」
「え、でも」
「そうしなさいな、ちゃん。最近は暗くなるのが早いし」
母の言葉には、そうですけどー、と唸る。
「そーだよ。一人じゃ危ないC」
「……分かった。ジロちゃんが終わるまで待ってるね」
コーヒーを飲んでおれを待っていたは口角を上げた。
('06.2.24)
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