***2
「行ってきます……」
「行ってらっしゃい」
母の声を背に二人並んで学校に向かう。並んだ影はのが少し長い。はおれより少し、背が高いから。
「ジロちゃん、起きてる?」
「んー……、起きてる」
「黙ってるからまた寝ちゃったかと思ったよ」
「確かにねみーけど」
やっぱり、と言っては笑う。マフラーで口元まで覆われたその唇からはくぐもった笑い声が零れ、吐く息で眼鏡が一瞬だけ曇った。
学校までは徒歩で十五分ほどだ。おれは眠いし、もあまりぺらぺらと喋る方では無いので、自然と無言のまま歩く。それでも間に流れる沈黙に苦しむ事は無い。背筋を伸ばして歩くの隣を歩くのは心地好い。校門をくぐるとはまた笑った。
「じゃあジロちゃん、頑張ってね」
「ん。帰り迎えに行くから」
待ってる、とはおれに背を向ける。校舎に向かうの背中を見送っていると頭を軽く叩かれた。
「おはようさん」
そこには、眠そうな顔をした忍足が立っていた。
「忍足。はよ」
「今日もさんに起こしてもろたんか」
忍足に言わせるとはおれのお目付け役なのだそうだ。お目付け役って言うとおれが悪い事するみてーだな。
「そーだよ」
「さんも、よお、しはるなあ」
何気なく笑って言われた言葉が最近はちくりと胸に刺さる。
……分かってるんだ、自分でも。
幼なじみだから、性格上おれを放っておけないから、おれを起こしにくるのだとしても、おれは毎朝寝ているふりをする。実際眠いのもあるけどの手が頭を撫でるまでは、起きない。
物心付いた時からは、おれにとって特別な女の子だった。
その佇まいや生徒会での仕事ぶりから、クールとか怖そうだとか言われるけど、本当はとても優しくて可愛いのだ。実は運動があまり得意でなかったり、きりっとして見えてるけどぼんやりとしてる事も多かったりするのに、おれはそういう事を言う奴等に訂正したりはしない。誤解されたままなのは嫌だけど、それでを好きになられるのは困るから。
……つまらない、独占欲だ。
「ジロー? どうした?」
「……何でもねぇ」
「ほな部活行こうや。跡部に怒られんで」
その言葉に頷きながらもう校舎に入ってしまったと分かってたけど、おれは校舎を見ずには居られなかった。
('06.3.3)
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