<キスで書く9のお題> 
02.そのキスを残して、の続きです。









落とされたしずくは、ゆっくりと輪を描いて。










波紋は広がった。










という人物は大人しそうな外見に反して妙に行動力がある。そのせいか、見ていてはらはらしてしまうことが多かった。

「……お前、もうちょっと注意しろよ……」
「ご、ごめん……」

椅子に登り、教室後方の黒板の上に掲示していた紙を剥がそうとしていたは、案の定、バランスを崩して落ちそうになっていた。見ていたから良かったものの、誰も居なかったらどうするつもりだったんだ。

「何か、桑原くんにはいつも助けてもらってるねー」

呑気な口調に脱力する。

「それは構わねえけど……、気をつけろよ?」
「うん!」

は元気良く返事をした。

クラスメイトのとは、とあることがきっかけで話すようになった。昼寝をしていた俺の上にが文字通り”降って”きたのだ。その時から気になって仕方ない。何しろ彼女は元気が良過ぎるのだ。いつも走り回っている印象がある。いや、走り回っているというより、跳ね回っている、という感じだが。剥がした紙を丁寧に畳みゴミ箱に持って行く足取りも軽く、つい目で追ってしまう。
―――目が、離せなくなる。


*


よろよろと歩いているやつが居るな、と思ったらだった。クラス全員分だろうか、大量のノートを抱え、危なっかしい足取りで階段を昇っている。俺は手助けしようと声をかけた。

「おい、」
「あ、桑原く……、きゃああっ!」

満面の笑顔で振り返ったは階段を踏み外し、ノートが宙に舞った。

「……び……、びっくりした……」
「間に、合ったか……」

間一髪、落ちそうになった彼女だけは支える事が出来た。腕の中のは肩で息をしている。大きく息を吐くと俺を見上げたは笑う。

「有難う、桑原くん!」
「いや、元はと言えば俺が声をかけたせいだから」
「そんなことないよー」

ちらり、と落ちた大量のノートを見ながらは呟いた。は、よ、と声をかけ、体勢を立て直す。去っていく温もりが、少しだけ、惜しかった。

「あーあ、もう……」

は階段を降りて、落ちたノートを拾っていく。それを横から奪った。

「桑原くん?」
「俺が持つから、お前拾ってくれ」

はきょとんとした顔をした後、微笑んだ。

「うん」

拾い集めたノートは持ってみると結構な重量があった。これを一人で持っていこうとしていただなんて、無茶にも程がある。誰かに助けを求めればいいのに迷惑をかけることを憂うはそうしない。甘えることをしないに、自然とため息が出た。

「教室までか?」
「うん、そう……って、私、持つよー?」
「いいから」

は、でも、と言い澱んだ。

「お前に、持たせたくない」
「ど、どうして?」

は眉を下げて悲しそうな顔をする。行動を否定されたとでも思ったのだろうが、それは違うんだ。俺は焦って続けた。

「違う、そうじゃなくてっ……、俺が、持ちたいんだ!」
「……え?」

は、今度は怪訝そうに眉を寄せる。

「俺はお前を助けたいんだ……お前が、気になる、から」

そこまで言ってを見ると、はぽかんと口を開けて俺を見上げていた。自分の言った事が今更ながらに恥ずかしくなってくる。でも、が困っていたら助けたい。出来るなら、甘やかしたい、とか、思う。これはさすがに言えないけど。

「その……丸井や、仁王みたいにうまく言えないんだけどよ……」

はふるふると首を横に振る。どうして丸井くんや仁王くんの名前が出るのか分からないんだけど、と彼女は前置いて続けた。

「私は桑原くんが好きだから、」
「は?!」

驚いて見つめると、照れたように笑う。

「だから、嬉しい」
「そ……、か」
「うん!」

頷いたはいつも通り。さっきの告白も無かったかのように、跳ねるような足取りで階段を昇っていく。その後をノートを持ったままついて行くと、教室のドアに手をかけたは俺を見上げた。

「ねえ桑原くん、」
「ん?」

熱くなってきた頬を見られたくなくて俯いたまま返すと、は俺の顔を覗き込む。馬鹿、見てんじゃねえ、と視線を遣ると。

「今日、一緒に帰りませんか?」
「お……おう」

の顔も赤く染まっていて、思わず持っていたノートを落としそうになってしまった。


('06.7.24)









お題のジャッカルの話の続きです。ウェブ拍手で、続きを読んでみたい、というお言葉を頂いたので(すーぐ、調子に乗る……)。
お題の時から、ヒロインの方が積極的、という設定でした(実は)。