1/水滴
慈郎を起こしに来てみると、女と二人、木に凭れて眠っていた。
「おい、慈郎起きろ。サボるつもりか」
「……んん、あとべ? え、もう部活始まる時間?」
ふわわ、と緊張感の無い欠伸をしながら慈郎は言う。
「全くお前は……。お前のオンナか?」
未だに慈郎の隣で眠る女を顎で差すと慈郎はきょとんとした顔をした。
「……え? ああ、のこと? 違うよー、は昼寝友達。、おれ、部活行くけどー?」
「……う、」
女は眉間に皺を寄せ、ゆっくりと目を開ける。何度か瞬きを繰り返し、慈郎の姿を認めると微笑んだ。
「……おはよー、ジローくん」
「おれ、お迎えが来たから」
俺を見上げた女は小首を傾げ、小さく忍び笑いを洩らした。
「今日は樺地くんじゃなくて、跡部くんなんだね」
こちらの緊張感まで解きそうな緩い笑顔。俺はそれを一瞥して慈郎に告げる。
「……行くぞ、慈郎」
「ん。じゃ、またね」
「うん」
***
「おー、跡部、よう慈郎見つけて来たなあ」
「……慈郎の奴、女と昼寝してやがった」
「ああ、とやろ」
嘆息しつつ返した俺に、忍足は何でもないことのように言った。
「知ってんのか」
「まあなあ。結構、有名やで」
忍足はタオルで汗を拭いながら僅かに唇を緩める。
「あの子、女ジローて呼ばれとんねん。慈郎に負けず劣らず、よう寝とるから……まあ、もう一つ呼び名あんねんけど」
「もう一つ?」
「そう――――人魚姫、て」
俺が眉間に皺を寄せると、忍足は咽喉の奥で笑う。
「水泳部のホープやねんて。その点も慈郎みたいやろ?」
「くっだらねえ」
「まー、そう言いなや。可愛いのは可愛いし」
確かにそこそこの容姿はしていたが。
「……興味無ぇな」
この先関わり合うことなど無いと思ったのだ、その時は。
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('07.3.28)