2/水紋
「見ろよ、侑士。あいつら、また寝てやがるぜ」
「――何してんだ」
窓の下を楽しそうに見下ろしていた向日は俺を目にすると身構えた。
「跡部、どないしたん」
のんびりとした口調で忍足が言うのを聞きながら、俺は視線を窓の下に落とす。そこには昨日の放課後と同じ光景が広がっていた。慈郎は俯いて動かないの肩に頭を持たせかけ熟睡している。
「な。あんまり珍しい光景でも無いねん」
くくく、と咽喉の奥で忍足は笑いながら言った。太平楽な光景に呆れて嘆息する。
「……忍足、」
「何や」
「今日の部活、生徒会で少し遅れる。……向日、サボんなよ」
「了解」
「言われなくても分かってるっつーの!」
尚も喚く向日を無視して、窓の下の光景に背を向けた。
***
部活終了後、慈郎と忍足と校門を出ると慈郎が突然走り出した。その先にはの姿が、あった。
「!」
学園前のバス停に座っていたはとろんとした目をしてこちらに顔を向け微笑む。
「ジローくん、今部活終わったの? お疲れさま」
「こそ、今帰り?」
「うん」
慈郎はいそいそとの隣に腰を下ろした。は後ろに居た俺や忍足に気付くと、微笑を浮かべたまま会釈をする。
「跡部くんと忍足くんもお疲れさまです」
「……ああ」
「どーも。ほなな、跡部、慈郎」
忍足は如才無くに笑いかけ、バス停の前を通り過ぎ歩いて行った。
「跡部くんもバス?」
「いや、」
校門をくぐる前に連絡をしたので当然ながら迎えの車はまだ来ていない。
「迎えが来るんだよ」
慈郎が後を引き継ぎ答えると、は頷いて見せた。腰をずらしてもう一人座れるスペースを作り俺を見上げる。
「どうぞ」
断るのは容易いことだったが、黙って慈郎との間にを挟んで座った。ぼんやりしているの髪は未だ濡れていて微かにカルキの香りがする。
「、明日も昼休み、中庭で食べる?」
「明日は友達と学食で食べる約束をしたの」
「そっかー、分かった」
慈郎はを好きなのだろうか。一見分かり易そうなこいつは、実は忍足や萩之介より読めない。口にするのは心からの言葉だろうとは思うのだが、その真意までは分からなかった。
他人の心の機微が手に取るように見えると自負している。しかし、ガキの頃から知っているチームメイトとなると甘さを含んでしまうのか、多少それが鈍る気がした。穿ったものの見方をしてしまう負い目もあるのかもしれない。だが見えるものだけを信じるほど純粋でも馬鹿でもない。
しかし結局は、自身の心持ちの問題なのだろう。人は見たいものを信じ、見ようとする。そして自身の信じたいものから相手が外れた行動を取ると裏切られたと感じるのだ。
「跡部?」
気付くと慈郎が俺の顔を覗き込んでいた。
「……何だ?」
「あれ跡部んちのくるまじゃねえ?」
「ああ」
寄ってきた車に立ち上がると運転手が降りてきて流れるような仕種でドアを開ける。リアシートに落ち着きバス停に居た二人を見ると似たような笑顔を浮かべ俺を見ていた。慈郎は勢い良く手を振り、はさっきもしたように首を傾げるかのように会釈をする。
「――出せ」
遅くなった部活のせいか、余計なことまで柄にも無く思考を巡らせたせいか、疲れを覚えた気がして、沈み込むようにリアシートに深く凭れた。
BACK / NEXT
('07.4.9)