3/水波











終業後、廊下に出るとに行き会った。は俺の姿を認めた瞬間、唇の両端を上げる。今にも眠りに落ちそうな状態でしか会ったことが無かったのでついそれを口にした。

「……起きてるお前に会うと、驚くな」
「今から部活だからー」
「よく溺死しねえで済んでるもんだ」

揶揄うように言うと、は小さく笑う。

「死なないよ」

その物言いがやたらときっぱりとしていて目を瞠る。凛とした眼差しは俺を真っすぐ見据えていた。しかし、すぐにその瞳を緩ませて続ける。

「だって死んだらもう泳げないでしょー」
「そりゃあ……」

返答に詰まった俺を尻目に、はじゃあね、と横を擦り抜けて行く。香水などでは無い、微かな香りを残して。
―――が泳ぐところを見てみたい。
突然浮かんだ願望は、落とされたインクが紙にじわりと染み込んでいくように俺を侵していった。興味が、湧いた。

「跡部」
「……何だ」

呼びかけた声は宍戸のものだった。俺の顔を見た宍戸は訝るように眉を寄せる。

「何だよ、怖ぇ顔して」
「何でもねえ。何か用か」
「用が無きゃ声かけねぇよ。俺今日委員会出なきゃなんねえから部活遅れるわ」
「……ああ、分かった」

絡みついてくる思考を振り切るように、勢い良く足を踏み出した。


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('07.4.14)