11/水鏡
全国大会でも青学に敗れ、中等部でのテニス生活は幕を閉じた。悔いが無いと言ったら嘘になるが、まだ終わった訳じゃない。この借りは必ず返す。返してみせる。その為にも、本来なら引退する時期だったが変わらず部活には出ていた。
「跡部!」
「何だ」
着替えていると血相を変えた慈郎が飛び込んできた。尋常ではない慈郎の様子に同じように参加している宍戸や忍足、向日も着替える手を止める。
「が、」
「がどうした」
って誰だ、と訊く宍戸に忍足が、人魚姫やお前かて知っとるやろ、と返しているのを聞きながら慈郎の言葉を待っていると、荒い呼吸を繰り返していた慈郎は息が整ったのか続けた。
「外国に留学、するって」
「……留学だと?」
「夏休み明けには、あっちの学校に通うって」
慈郎は不本意そうにぽつぽつと告げる。
「そうか」
「……聞いてた?」
「いや、今初めて聞いた」
俺もそうだったがも大会前で、ほとんど会わないうちに夏期休暇に入った。ようやく気付いたが、俺はの携帯番号も何も知らない。俺が知っているのは、は泳ぐことと眠ることが好き、ということだけなのだ。だが、それで十分だった。
……そうか、留学するのか。
驚きはしたが何処かで納得していた。ならそういう道を選ぶこともあるだろう、と。
「そっか……」
頷いた慈郎に、着替え終えた向日はラケットを回しながら訊く。
「留学って、何処にだよ?」
「氷帝の姉妹校の……」
慈郎が挙げた学校名に、忍足は思い当たったのか頷いて見せた。
「この前も、何や、大会で優勝しとったしなあ。頑張っとるんやね」
「……跡部、あのさ、」
「慈郎、今日は参加しねえのか。しねえのなら、さっさと帰れ」
俺は慈郎を見据えて言う。慈郎は言いかけた言葉を飲み込み、ため息をつく。
「……今から、着替えるよ」
「そうか」
言いたいことは、分かっていた。
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('07.5.29)