視線を感じた気がして振り返る。やはりそこには仁王雅治が居た。目が合った仁王くんは僅かに唇の端を上げる。私は断ち切るように背を向けた。逸らされることのない視線を肌に感じながら。





未 必 の 故 意










◇夏

……暑い。
アスファルトの表面からゆらゆら空気が立ち上る。うんざりしながら歩を進めると、汗が背中を、胸の間を伝うのが分かる。こめかみを通り、顎まで垂れてくる雫に持っていたタオルを押し当てる。折角塗った日焼け止めも溶けて流れていく。蒸れて頭がぼうっとなりそうだけど、帽子が作る僅かな影でも今は有難い。耳にこだまするような蝉の大音声に、世界に私一人しか居ないんじゃないかと錯覚しそうになる。だが時折すれ違う車の排気音にそれは誤りだと気付かされる。ようやく見えてきた校門に、吐いた安堵の息も熱い。濃い青に染められた空で我が物顔に輝く太陽は、じりじりと私の肌を焦がしていく。敷地内に入ると木陰が増えて、少し楽になる。こんもりと繁った葉が落とす影を選んで校舎まで辿り着く。屋内はさすがに外よりも涼しい。帽子を脱いでため息をつく。しんとした下足棟で靴を履き替え職員室まで歩くと校庭やテニスコートからの声が聞こえる。
……こんなに暑いのに、ご苦労なことだ。
部活の、水やり当番でも無ければ、夏休みに学校まで来るなんてことはない。人が少ないせいか、エアコンの入ってない職員室の扉は開け放たれている。顧問は居なかったので、近くに居た教師に断って部室の鍵を借りる。またあの炎天下に出て行かなければならないけど、終わらせないことには帰れないので帽子をかぶり、外に出た。


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