1*sparkle











小学三年になる頃、お父さんのお仕事の関係で雅治は引っ越すことになった。引っ越し先に向かう直前までお見送りと称して傍に居た私に雅治は言った。

「……俺のこと、好きになったらいかんよ」

びっくりするくらい乾いた声に、私は雅治を見る。唐突な言葉に出かけた涙も止まってしまったみたいだった。

「……どうして?」
「いつか、終わりが来るから」

雅治は前を向いたまま、私を見ないまま、告げる。
いつか、っていつ? 何が、終わるの? 疑問符を浮かべて雅治を見つめると雅治は笑って見せた。それは、絶対言わない、ということ。雅治は、こうと決めたらそれを違えることはない。

「……分かった」

本当は分かってなんかいなかった。でも、頷く以外、出来なかった。

*

*

*

中学校に上がる頃、雅治は戻ってきた。仁王さんち、神奈川に戻ってくるそうよ、と母から聞かされた時、ほんのりと嬉しかった。そう、ほんのりと、なのだ。引っ越ししてすぐは私も手紙を出したりしていたけど、雅治は返事をくれたりはしなかったし、段々と疎遠になっていったから、気持ちは薄れたと思っていた―――あの時まで。

「……よぉ、久しぶり」

雅治と再会したのは、立海大附属中学校での入学式だった。いつの間に受験していたのだろう。戻ってくるとは聞いていたけど、まさか五年ぶりに同じ学校に通えるとは思っていなかった。目を見開いていると、雅治は微かに笑う。久しぶりに会った雅治は身長が伸び、髪も染めていて、一体この男は誰だろう、と思った。声も、知らない。いつの間に、そんな低く甘やかに響くようになったの。

「……そうだね」

気持ちが薄れた、なんて思っていたのは誰? 昔とは違う、両胸の間を締めつける感覚に、私はそれだけしか返せない。こうして姿を目の前にすると、気持ちは簡単に蘇った。薄れたなんて思ったのが嘘みたいだった。さわさわと皮膚のすぐ下で身動ぐ感情に混乱する。雅治はくく、と咽喉の奥で笑う。

「なあ……俺のこと、好き?」

笑った雅治の瞳は全然笑ってなど居なかった。ああ、あの約束を彼も忘れていないのだ。可笑しくなんて無かったのに唇の両端を無理矢理引き上げる。

「……好きじゃないよ」

雅治は私に魔法をかけた。
そうだ、あれからずっと、魔法にかかったままだったんだ。



それからも雅治は魔法の効果を確かめるように、その質問を口にする。


笑わない笑顔で、何度も。


('06.11.20)


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