3.W
近い内にこうなるかなあとは思っていた。というか、こんなこと、漫画や小説の中だけの話だと思っていたのに。部活の前に呼び出された私は数人の三年生と二年生に囲まれていた。
「……ちょっと、聞いてるの!?」
「聞いてますよ。練習したいので手短にお願いしますね」
「……むかつく。あんた、ちょっとレギュラーに気に入られてるからっていい気になってるんじゃないの」
「……なってません」
馬鹿みたい、いや馬鹿だ。こんなことをして何になる。怒りをぶつける矛先を間違えて頭に血が昇っている人達を見ていると、逆に頭が冷えていく。
「レギュラーになれなかった人達の気持ちとか考えたことなんて無いんでしょ。少しはそういう人達の気持ちも考えなさいよ!」
「……くだらないですね」
私がレギュラーになれたのは私が努力したからだ。私には才能は無い。あるとすれば諦めず練習し続ける性格だけで。それに、運や先輩に気に入られているからというだけで手に入るほど、立海のレギュラーの座は、甘くない。だから私は人がする以上に練習した。練習して出来なかったことが出来るようにした。それが実を結んだだけなのに、レギュラー入り出来なかったからと他人を羨んで、こうしてけちを付ける。なんて醜い行為なんだろう。そんなことをする人達の気持ちを考えられる訳が無いし、考えたくも無い。それに、人の気持ちは分かるような気になっても、分かることは出来ないのだ、どう足掻いても。
ため息をつくとそれが彼女達の癪に障ったようで一層声が高くなった。
「男に媚びて、ちゃらちゃらしてるだけのくせに!」
「……何ですか、それ」
言った本人を見据えると、彼女は嘲るように笑う。
「幸村くんがあんたに喋りかけるからのは、あんたが可哀相だから相手してるだけって気付いてないの?」
怒りで顔が熱くなった。
「……幸村に、何の関係が、」
「あたし、この前聞いたんだから」
私の呟きを無視して、彼女が勝ち誇ったように続ける。
「部長が幸村くんに、は難しい子だけどよろしくね、って言ってたの。同情で優しくしてくれてるだけなのに、勘違いしてんじゃないわよ!」
「…………本当に、くだらない」
私は深呼吸して彼女たちを見据えた。自然と唇の片端が上がる。
「こういうことばっかりやってるから何時まで経っても、」
「――何をしているんですか」
突然響いた低い声に私も、彼女たちも肩を震わせた。
「もう部活は始まっていますよ」
声は、柳のものだった。三年も居るからだろう、敬語ではあったが何処か責めるような柳の態度に私を囲んで居た彼女たちは怯えたような表情を浮かべる。私は言いかけた言葉を飲み込んで深呼吸した。
「……ちょっと話をしていただけ」
「そうか――邪魔をしたか?」
柳は一瞬だけ気遣うように私を見た。それが心配でなく憐れみに見えた私は本当に救われない。
「いいえ、話はもう済んだから」
「ちょ、ちょっと!」
あいかわらず喚く彼女たちを押し退けて、私は手洗い場に向かった。蛇口を捻り、何度か顔を洗う。タオルで顔を拭いて大きく息を吐く。
……同情か。
それはそうだろう。クラスメイトでもないし、愛想も良くない私に声をかける理由など見当たらない。面白がっていたのか、憐れまれていたのか、真偽は確かじゃないけど納得してしまった。ふ、と唇は弧を描く。大声で笑い出しそうになる。
――なのに、どうして涙が出るんだろう。
('07.2.13)
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