クロゼットフリーク・1
部活で疲れた体を引き摺って、夜出歩くようになったのは何時からだろう。そんなに何年も続けている訳でもないのに、はっきりと思い出せない。親元を離れた解放感からじゃないか、と思うのだが。年齢相応に見られたことの無い外見のお陰で補導される事も無く、高校に上がってからもそれを続けていた。
***
その日の事も、いつもの事だった。適当に酒を飲み、会話し、気が合えば、寝る。こいつもそんな風に出会った内の一人になる筈だった。
「じゃあ、ウチ来るか?」
……顔も躰もそこそこ好みやし。
何より、話していて疲れない女だった。
彼女は少し考えた後、三日月みたいに目を細めて笑う。
「……うん」
唇のグロスが薄暗い照明の下でつやつやと光った。
彼女はミュールを鳴らしながら夜道を歩く。カウンタに隠れていた足が膝の見えるスカートからすらりと伸びている。細く無く太くも無く、まあまあ好みの足。細過ぎるのも、いささか色気に欠けるものだし。それに、白い足首は、きゅ、と締まっていた。月明かりの下、ふわふわの髪は茶色に透けて見える。
「なあ、自分幾つなん?」
意外と上なんかも、と思いつつ年を訊いた。
「……それは大事なこと?」
彼女は笑って訊き返す。
「……そうやな」
俺も笑う。行きずりの関係に年は必要無い。
……こんなん訊くなんて、酔うてんのかな。
柄にも無く、アルコールが程よく回っているのか。少し前を歩く彼女も、ふらふらした足取りで歩を進めている。
***
「一人暮し?」
「そう」
部屋の鍵を開け促すと、素直に中に入る。ドアが背後で音を立てて閉まると同時に、シャツの胸元を掴まれ引き寄せられた。俺の口の中で彼女の舌が蠢く。唇を離すと唾液が糸を引いた。彼女は面白そうに俺の眼鏡を外す。
「……シャワー浴びへんの?」
眼鏡を取り返し言うと、彼女は笑った。
「浴びた方がいいなら」
挑むように、試すように、彼女の瞳の奥が揺れる。
「いや、ええわ。そのままヤるんも嫌いやないし」
ベッドに直行し互いの衣服を剥ぎ取っていく。紅いペディキュアがシーツの上で妖しく滲む。口付け背中に手を回し下着のホックを外す。解放された胸は意外と大きかった。鷲掴むように揉みしだくと鼻にかかったような声を漏らす。耳に鎖骨に甘噛みするようにキスを落とす。手入れされた爪が俺の腕に食い込む。先端を引っ掻くように愛撫すると躰を震わせた。
「……感度ええね」
わざと音を立てて指を出し入れすると彼女は喘ぎながら笑った。そして躰を起こし俺のに手を這わす。躰にキスしながら降りていった彼女の口は俺のを銜える。
「く、」
先を舐め咽喉の奥まで銜え込む。包むように舌を動かしていたかと思うと筋に舌を這わせ舐め上げる。一瞬、ヤバい女ひっかけたんかと思った。巧すぎて。かと言って病的なものは感じられない。どこか楽しげに、彼女は顔を埋めている。緩くパーマをかけた髪を押さえてやると、少し笑った。彼女は唇の端から零れた唾液を手の甲で拭う。ゴムを取り出すと彼女は、それを口で器用に着け俺の上に乗ろうとした。
「え、あんた、濡れとるん?」
「」
「は?」
彼女は自分自身を指差す。そして手を差し伸べるかのように俺に向けた。
「あなたは?」
「……侑士」
にこり、と笑い俺のを自分の中にゆっくりと埋めていく。そこは、俺のを容易に受け入れられるほど濡れていた。
「ふ、」
至極嬉しそうに彼女は甘い声を漏らした。彼女の体重で俺を全部飲み込んでいく。根元まで銜え込むと、耐えるように一瞬俯いた。そして、俺の胸に両手を乗せ、動く。揺れる胸に手を遣ると、目を細め息を吐く。先を指で摘み、撫で上げる。
「侑士気持ちい……っ」
ここまで積極的に動く女は初めてだった。快楽だけを追求し余計な事は訊かない。まさに理想的な都合のいい女。じわじわ来る官能の波に目を閉じ彼女の動きに合わせる。突然、あ、と一声漏らし彼女は俺の胸に凭れぐったりした。
「……何、もうイったん?」
「ん……」
彼女は気だるげに頷く。繋がったまま反転し彼女を組み敷き腰を動かした。彼女は嬉しそうに嬌声を漏らし、背中に腕を回す。その唇に口付けると応えるように舌を絡めてくる。
「うわ……、めっちゃ、具合ええ」
何ていうかこう、纏わり付いてくる感じとか、濡れ具合とか。今までとは比べものにならん位、良かった。彼女は俺の両腕を掴み、呟く。
「もっと、」
「……もっと?」
「気持ち良くなって?」
俺を見上げ目を細め笑う。綺麗やな、と感じさせる笑顔だった。決してすごい美人とか、そういう顔では無いけど。
「あんた……、いや、は、どうなん?」
「すっごい、気持ちいい……っ」
一語一語区切るように、口にして笑う。セックスには大抵後ろめたい気配が付き纏うものだが、それは明るかった。ずっと繋がっていたい、ような。限界が近いのが分かって腰の動きを速めると、彼女も堪えるように目を閉じた。
(.04.10.5)
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