クロゼットフリーク・5










屋上で風に吹かれ校庭を見下ろす彼女の横顔は何処か寂しげに見えた。いつもは余裕たっぷりに微笑んでいるくせに、どうして。


「……侑士。どうしたの」

名を呼ぶと、ぱ、と笑顔になる。笑うと歳相応に見えて、胸が苦しくなった。
今すぐ、触れたかった。

「……なあ、俺にしとき」
「え?」
「俺と、付き合おや」

唐突な言葉に、彼女は複雑な表情を浮かべた。

「迷惑?」
「迷惑、では無いよ。でも……躰だけの方が気楽でしょう?」
「普通の女は言わんよ、それ」

ふ、とは笑った。泣く寸前のような、笑顔だった。

「私、侑士が好きよ」

彼女の言葉に思わず目を瞠った。は、泣き笑いの表情のまま、続ける。

「侑士と会った時から、他の人と寝ようと思わなくなったもの。侑士とだけ、会いたいと思うようになってしまったもの」

は、今度こそ泣きそうな顔になって言葉を切った。躊躇した末に、再び口を開く。

「だから……そう言われて嬉しいけど、つらい。特別に想うのは、怖いよ。いつか失うくらいなら……要らないわ」

諦めたように締め括り、は背中を向けた。

―――今、分かった。彼女の奔放さの訳が。
切り捨てる、切り捨てられるような日が来る事を知っているから、刹那的で分かり易い躰の関係を求めているのだと。

それでも、俺はが欲しかった。躰も、心も全て。
躰から始まる恋もあるのだ、と思った。

もそうだろう。だから、うっかり仮面を被り損ねた。心を揺らし困惑した。それが、どうしようもなく愛しかった。抱き寄せ頬に口付けるとは躰を強張らせた。

「今までと同じで、いいじゃない」
「嫌や。絶対付き合う」
「付き合ったら嫉妬深くなるかもしれないよ? 泣いて縋ったりするようになるかもよ? ……侑士の嫌いな、面倒臭い女に。ねえ、一時の迷いで見失わないで。この関係を駄目にしないで。侑士は愛情と勘違いしてるだけで、それは……執着じゃないの?」
「執着と愛情の違いて何? 好きな女に執着すんのに愛情は無い言うんか?」
「っ、それは……」

は、口籠もり目を逸らす。

「面倒でも、うざくなっても向かい合うたるわ。……好きや、

初めて口にした言葉は彼女の躰を震わせた。俺の胸に顔を埋め、嘆息する。

「どうしてそんな事言うの……」

くぐもって聞こえた声に、いつもの覇気は無い。

「そんな事言うと、離れられなくなるじゃない……」
「離さんつもりやから、安心せえ」

は顔を上げ、困ったような顔のまま微笑んだ。

「つもり、っていうのが侑士らしい」

忍び笑いを漏らし、言う。

「じゃあ、覚悟してくれる? 私、結構独占欲強いんだよ?」
「なんぼでもしたる」

そう言って唇を寄せるとは嬉しそうに目を閉じた。





罠に填まった気がするというのに清々しい気分だった。

この先厄介な事が起こらないとは限らない。ひょっとしたら、うざくなって手を離したくなるかもしれん。でも、と居れば、が相手なら、何でも乗り越えられそうな気がした。



名を呼ばれ、くすぐったそうに笑うを、力一杯抱き締めた。


('04.11.2)


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アレな内容だったにも関わらず最後まで読んでくださって有難うございます。

タイトルは「昼は淑女だけど、夜は娼婦のように奔放に振舞う、つまり、人は見かけによらないものだ」というような感じの意味です(山田詠美さんのエッセイで出てきました)。そんなヒロインにはまっていく忍足を書きたくて書いたのですが……、結構過激な内容になってしまって(あわわ……!!)。
ええと、私はこんな経験ありませんから!!(もしあったら誰にも言わない)