「忍足くん」
「……ハイ?」

目の前に立っていたのは見覚えの無い女子だった。俺は開いていた雑誌を閉じる。

「私、3年C組のと申します」
「……はあ」

……何やろ、コイツ。
俺は眉間に皺を寄せ彼女の言葉を待つ。

「あなたが好きです」

あまりにも直球なセリフに一瞬呆気に取られた。周囲で聞き耳を立てていたクラスメイト達も固唾を呑んで行く末を見守っている。

「……て言われても、俺アンタの事見たの初めてやし、」
「でしょうね」

彼女は即答した。目を丸くして見つめると、彼女はにっこりと笑う。

「だから、一ヶ月、付き纏わせて頂いていいですか」










期間限定・1










「忍足、お前何か面白い事があったらしいじゃねえか」

にやり、と跡部は唇の端を上げる。

「……話早いな」

俺はネクタイを締めながら、ため息をついた。



***



「……付き纏うて何やの」

見上げるとは微笑んだ。

「やー、お友達から、というのも告白しておいて変でしょう。相手してもらえたら嬉しいけど、勝手にする事なんで付き纏うって感じかなと」
「……訳、分からんな」

がたん、と音を立てて立ち上がり、バッグを肩にかけた。は俺を見上げ、訊く。

「部活ですか?」
「……ああ」
「そうですか。怪我しないようなさってください。では、今日はこの辺で失礼しますね」

現れた時と同じように彼女は唐突に去って行った。



***



「ああ、だろ?」

宍戸が被っていたキャップをバッグに押し込めながら言う。

「知っとる?」
「同じクラス。でもなー、そういう事しそうに見えなかったけどなあ」
「……実際しとるからなあ」

ははは、と乾いた笑いを上げると、宍戸は気持ち悪そうにこちらを見た。
……正直、ヒくちゅーか、何ちゅーか。宣言したストーカーみたいなもんな訳で。

「オレ、あいつと委員会一緒」

岳人はバッグを肩にかけて言った。

「何の」
「美化委員」
「ほー……」

そらまたご苦労な事で。

「普通のヤツだったけど」

やから、過去形で言うのを止めちゅう話や。俺は音を立ててロッカーを閉めた。

「ああいう訳の分からへん不思議ちゃんは苦手なんや。気色悪いやろ」
「ああー、まあなあ」



*****



「あ、おはよう」

校門に立っていたは俺の姿を認めると走り寄って来た。
にこにこと笑う顔を改めて見る。化粧のケの字も見当たらない健康そうな頬。どんぐりまなことはこういうのを言うのだろうという丸い瞳。弧を描く唇にも色は乗せられていなかった。

「正直、アンタの事気持ち悪いんやけど」
「そうでしょうね」

昨日みたいに即答され拍子抜けした。眉間に皺を寄せて見つめると、彼女は目を細めて笑う。

「でも、見てるだけでは伝わらないし、私の事も知らないままだったでしょう。一ヶ月、いえ、あと二十九日。我慢して貰えませんか」
「……分かった。それ過ぎたら付き纏わんのやな」
「ええ。お約束します」
「ところで。何で敬語なん?」
「ああ……緊張してたから」

ため息のように彼女は呟いた。

「ちっともそう見えへんよ」
「そう見えないようしてるの」

弱冠嫌味を込めて言ったのに、彼女は小気味良い切り返しをした。ふと視線を落とすと、スカートの端を握る手は僅かに震えている。俺が何も言わずにいると、は微笑んだ。

「今から、部活でしょ? じゃあ、またね」

くる、と踵を返し、彼女は校舎に歩いて行く。
……からかわれとるんやろうか?
引き際が良過ぎて俺は思った。


('05.1.2)


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