期間限定・2
は、朝練前と昼休みに現れる。二言三言話すと、振り返る事無く去って行く。その日も岳人と昼食をとっていると、何時ものようには現れた。
「おー、ー」
「向日くん、こんにちは」
「何、それ」
は手に包みを持っていた。岳人の言葉には笑う。
「差し入れ、かな。向日くんも良かったら」
「え、食い物?」
「そうですよー」
岳人は、俺を窺った。
「……有難うな」
仕方なくため息をついて受け取ると、嬉しそうに笑った。
「でも迷惑や」
「おい、侑士!」
岳人が、シャツを引っ張る。いいの、とは笑った。
「じゃあ、もう止めます。けど、これまでは受け取って貰ってもいい? 後で捨てるなり何なりして貰って構わないから」
「……食い物なんやろ、ちゃんと食うわ」
「そう……。有難う」
は目を細めて笑った。
***
「……何しとんの」
「あ、忍足くん」
は屋上の死角になる所で横座りしていた。彼女の前には本が開かれている。その場所は慈郎がよく昼寝をしている所で、俺も一人になりたい時はよくそこで時間を過ごした。
「こんな所で会うなんて」
ふわり、と嬉しそうに微笑んでは言う。
「何、ジブンも自習なん?」
五時間目が自習になったので、昼寝をしようと来たのだが思いもかけない人物に会った。
「あ、うん」
「一人?」
「うん。トモダチは……、」
そう言って俺を見つめる。俺が首を僅かに傾げると、ため息をついて続けた。
「その……彼氏と居るの。何時も一緒に居るから、こういう時くらい二人にしたくて」
「そういうもん?」
「気にするなって言ってくれても、気になるよ、やっぱり」
「ふーん」
俺が頷いてみせると、は何か言いかけたが、口を引き結ぶ。そして元々していたように本の続きを読み始めた。
……どうも調子が狂う。
俺を好きで付き纏うと言った割に、会いに来る以上の事をしない。焦らそうとか言うつもりも無さそうだし。の横顔を窺い見ると、本に集中していた。
……あほらし。何、気にしとんねん。
俺は壁に寄りかかり、思考を振り切るように目を閉じた。
***
「って練習見に来ないのな」
岳人のセリフに俺は顔を上げる。そう言われてみれば、コートの周りのギャラリーの中に、の姿を見かけた事は無かった。
「……さあ、よう知らん」
「侑士、冷てー」
「俺にどうしろ言うねん」
「気が無いならさっさと断ればいいだろ」
「……あと三週間の事や」
シューズの紐を結び直しながら言うと、珍しく先に来ていた慈郎が部室のドアを勢い良く開けた。そのドアの音で宍戸は驚いたように体を震わせる。
「うおっ! 何だよ、ジロー」
「べっつに〜。おれ、先行くから!」
苛立ちを含んだような言葉に二人顔を見合わせた。
***
「おはよう、忍足くん」
すっかり見慣れた彼女の笑顔。大きい瞳を細めて笑う顔は、嫌いではない。返ってくる言葉も好感が持てる。でも訳の分からなさは拭えなくて、俺はただ頷いた。
「今日は天気が良くないね。雨が降りそう」
「そうやな」
適当な返事をする俺に、はにこにこと笑ったままだ。
「雨で、肩を冷やしたりしないようにね。じゃあ」
スカートを揺らし立ち去ろうとしたを呼び止めた。
「なあ」
彼女はびっくりしたように振り返り目を見開く。そして、頬を染め嬉しそうに笑った。
「何?」
「ジブン、頑張れ、て言わんのやな」
それは、ずっと気になっていた事だった。目を見て言うと、目を逸らす事無く見つめ返してくる。
「頑張ってる人に、それを言うのは失礼でしょう」
さも当然のように彼女は言う。思わず、呟いた。
「……俺、頑張っとる?」
「私には、そう見えるよ」
笑って彼女は頷いた。
('05.1.8)
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