期間限定・5










……かからへん。
慈郎が教えてくれた番号にかけても電源は切られたままになっていた。下駄箱の所に行って、名前を探す。そこには、ローファーがあった。は帰っていない。校舎内に居るという事だ。きちんと磨かれたローファーは、を思い出して胸が苦しくなる。

「……何や、アイツ」

思わずひとりごちると、持っていた携帯が震えた。

「はい」
―――忍足? おれ。
「何や慈郎、どうした」
―――、屋上に居るって。からメールが来た。
「分かった、有難うな」

通話終了のボタンを押し、携帯をポケットに仕舞う。俺は屋上に続く階段を駆け上がった。



***



「……よう」

は屋上に座り込んでいた。慈郎がよく昼寝をするのに使っているその場所に。乱れた呼吸を整えながら近付いて行く。

「お、忍足くん……? え、何で、部活は、」
「慈郎から色々聞かせてもろたんよ」

混乱したように呟く彼女に言うと、あ、と小さく叫び、俯いた。

「ジロちゃんたら……。内緒ね、って言ったのに……」
「……何で、慈郎と知り合いなの黙っとったん」

がこの場所を知っている事も、慈郎がやたらと神経質になっていた事も。
が慈郎の彼女の友人だというピースが嵌れば分かる事だった。今思えば、何か言いかけた跡部もそうだ。慈郎の彼女の友人だと気付いた跡部に、慈郎が口止めしていたのだろう。

「だって……色々話を聞いてたなんて知ったら余計に気持ち悪がられるかなって」

彼女はスカートを握り締めて言った。つやつやと輝く髪を見下ろして口を開く。

「……一ヶ月の間な、」
「……うん」
「俺がジブンを好きになるとは思わんかったん?」

ぱ、と彼女は顔を上げる。

「……そ、んな、大それた事思わないよ。今までの彼女が綺麗な人ばっかりなの知ってるし、気持ち悪がられてるのも、分かったしね」

ほう、とため息のように言った。自嘲的な事を言う時、はそんな言い方をする。それは彼女のくせだろうか。

「正直気持ち悪かったわ。にこにこして話し掛けてくるだけやったし」
「だって、それ以上どうしていいか分からなかったんだもん」

口を尖らせは眉を寄せる。泣きそうなのを堪えているような顔だった。

「今日は敬語使わへんのやな」
「……そういえば」
「そっちがええな」
「……有難う」

は笑う。諦めきったような笑顔に胸が疼いた。

「あのな、」
「……うん」
「明日から、一ヶ月、付き纏うから」
「……はあ?!」

目を見開いて彼女は素っ頓狂な声を上げた。ぱくぱくと金魚のように口を動かす。言いたい事がうまく言葉にならないようだった。

「もっと知りとうなってしもうたから、しゃあないやろ」
「そんな事しなくても。……もしかして意趣返しのつもり?」
「それもある」

俺が笑って言うと、は、やだなあ、と目を細めて笑った。つ、とその目尻から雫が落ちる。慌てては目を覆う。

「あ、違、あの、」
「うん」

ぽん、と。
彼女の頭に撫でるように触れると、彼女は体を震わせた。本当は抱き寄せたかったけど、そうするとは逃げてしまうような気がしたから。

「……あーあ、変な女に捕まってもうたなあ」
「……ひどい」

くすくす笑いながら言ったは、顔を上げない。かわりに屋上の床にぱたぱたと涙の落ちる音がした。

「……泣きながら笑うなや」
「だって、涙が」


は、目を丸くして顔を上げた。涙で濡れた頬を拭おうと手を伸ばす。柔らかい頬の感触に、胸の奥が微かに震えた。彼女は呆然としたように俺が涙を拭うのを見ている。

「……そう、呼んでもええか?」
「え、あの、」

離れても指先に残る感触で声も震えてしまいそうだった。必死で態勢を立て直し続ける。

「慈郎には呼ばせとるやん」
「そ、だけど、」
「なら、ええな。明日から楽しみや」

そう言うと、彼女は苦笑した。

「延長戦?」
「やね。覚悟しとき」
「怖いけど、」
「けど?」
「……楽しみ」

そう言って、赤い目を細め笑った。それはとても柔らかく胸に刺さって。
一ヶ月経つより前に、俺が陥落しそうだと、思った。


('05.1.28)


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***おまけ(三話の裏側)

「……何だよ、慈郎」
「言っちゃ駄目だよ、あとべ」
「はあ?」
の事。言おうとしたでしょ」
「……やっぱりお前の彼女の友達か」
「そー。は知られたくないみたいだから。お願い、あとべ。知らんぷりしててよ」
「そりゃあ……、構わねえけどよ」
「良かったー」
「珍しいな、お前がそこまでしてやるなんてよ」
「そ? おれは好きな人には優しいよ?」
「……そうかよ」







「一ヶ月付き纏うから」というのが何となく降りて来て出来た話です。どうも忍足の相手はどうしても振り回すタイプ(無自覚)になる気が。
そしてジロちゃん大活躍です。ジロちゃん好きー。きっと最強(最凶?)だと思う。