3:真因
「帰るか」
「うん」
ルーティンワークのような一緒の下校でも嬉しいと思う気持ちが湧く。恋をすると何処までも被虐的になれるものなのだろうか。どうして暴いてしまったのか、後悔もするけど、誰も知らない侑士を知っているのだという感情もある。そこまで考えて、つい口にしてしまった。
「どうして、そんな風に自分を作っているの?」
侑士は怪訝な眼差しで私を見下ろす。じっと見つめていると面倒臭そうに口を開いた。
「……じゃあ訊くけどな、全て曝け出すんは正しい、て思うか?」
言葉に詰まった私をよそに侑士は続ける。
「格好悪い所、醜い所は見せたない思わへん? 自分でもアカンて思う自分をわざわざ曝け出す必要無いやろ。エエ所だけ見せてたい、て思うんは、そんな可笑しいことか?」
「でも、それじゃ相手に分かって貰えないままだよ。好きなら分かって貰いたいって思うんじゃないの?」
それは、本当の侑士を知ってずっと、気になっていたことだった。何故そこまで頑なに心を閉ざすの。本心を隠す必要はあるの。侑士は呆れたようにため息を吐く。
「分かり合う、いうんは幻想や思うで。相手の考えとること推し量ることは出来ても、理解出来るような気にはなっても、本当に分かることは無理なんやから」
「それは、そうかもしれないけど……」
言っていることは理解出来る。でも納得がいかない。それに寂しい気がした。確かに分かり合うことは幻想かもしれない。それでも人は一人で生きていけないし、分かりたい、分かって欲しい、と思わずには居られないんじゃないだろうか。
「……それは、大変じゃないの?」
侑士は虚を衝かれたように目を見開く。でもそれは一瞬で、すぐに目を眇めた。
「別にお前に分かって貰おうとは考えてへん。嫌なら付き合い解消しよか」
「……え」
侑士は小さく鼻を鳴らして言い捨てる。
「余計なこと、言いなや」
「はい……」
冷たく落とされた言葉は針のように私を刺す。針は私の口を封じ、胸の底に楔を打ち込んだ。
◆
「……本当に大丈夫? 朝より顔色悪いよ?」
が心配そうに呟いた。それに頷いたけど、背中がぞくぞくする。朝起きてからずっと体が怠かった。微熱があったけど、動いていれば治まるだろうと考えていたのは甘かったのかもしれない。一時限目は何とか乗り切ったけど、朝より具合が悪くなっているのが自分でも分かった。早退した方がいい。頭では分かってる。でも、この分なら、帰ろうにも家まで帰り着ける自信が無い。
「……大丈夫、こうして大人しくしておけば治まると、」
「大丈夫な訳、あるかい」
声に顔を上げると侑士が立っていた。眩暈がしてその表情まで分からない。
「忍足くん、来てくれて良かった。、朝からこんな風で、」
どうやらが呼んでくれたようだった。こんなことで迷惑かける訳に行かないのに、と体とは裏腹に心が冷える。
「そうみたいやんな。スマンけどセンセに言うとって貰えるやろか。コイツ、保健室連れてって来るわ」
「りょーかい!」
「だから大丈夫、だってば……」
ディレイがかかって聞こえる、侑士との声に答えると、体が浮く。
「もうお前喋んな」
気付くと横抱きされていた。いわゆる”お姫様抱っこ”というやつだ。身を捩ろうにも全身怠くてどうしようもない。
「……侑士、」
「喋んな、言うたやろ。ちゃんと掴まっとけ」
「う、ん……」
制服越しの侑士の胸をそっと掴んでみたけれど、指にはちっとも力が入らなかった。
('09.5.9)
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