何時だって目論見は外れるし、急に落ちてしまうから避けられない。
まるで交通事故みたいに、運が悪かった、としか言いようが無いのだ。



――――――そして運が良かったとも?











トラフィックアクシデント*1









ふ、と意識が浮かび上がるような感覚がして目を開けると侑士の腕の中だった。目を擦り、少し上にある侑士の顔を覗く。暗闇に目が慣れてきたら端整な顔立ちを辿れた。眼鏡をかけていない寝顔は少し幼く、思わず微笑んでしまう。
……ああ、こんな筈じゃなかったのになあ。
にやにやしてしまう頬を押さえながら思った。躰だけでいいと、多くは望まないと思っていたのに。気付いたら心までも囚われていてこうして侑士の腕の中に居る。
……今日からは、帰る必要が無いんだ。
何時もは朝方こっそり帰っていたから。そう思うと頬が弛むのを止められない。
……咽喉、渇いたな。
下着だけ着けた躰で布団から出ると冷やりとした。床に落とされていた侑士のシャツを羽織り、立ち上がる。腕を伸ばしても指先の覗かないシャツは仄かに侑士の香りがした。
冷たいフローリングの床を裸足で音を立てないように歩く。冷蔵庫からミネラルウォーターのペットボトルを取り出し、グラスに注ぐ。グラスが白く曇ったけど、一気に飲み干した。


*

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夜遊びを覚えたのは中学生の頃。

歳の離れた姉は、何と言うか、常識には囚われない人で、倫理観とか道徳観念とか無いに等しく、自分がどうしたいかで生きている人だった。遊びに行くからついておいで、と言われるままついて行った先は、夜の繁華街。そこで、姉の友人達に紹介された。学校の友人とは違う大人びた人達との出会いで、私は麻痺していたのだろうか。自分までいっぱしの大人になったつもりで居た。――それこそ、幼さの証明だというのにね。

姉の友人、という男の人を好きになり、決死の思いで告白したら彼は驚いていた。でも歳なんて関係無いと思っていたし、今でもそう思う。世間的には何と言われようと、思う。

結局彼と付き合うことになって私は有頂天だった。年上の彼氏が居る私って何て大人だろうと。だから、くちづけられて押し倒された時も怖くなんて無かったし、むしろ嬉しかった。その行為に、夢中になった。そんな関係も彼が同い年の彼女を作った時に終わりを告げた。

「好きじゃなくなった訳じゃないんだけど……やっぱり歳が」

あまりの事に愕然として私はしばらく落ち込んだ。ふられた事もだけど、今更歳の事を言うなんて。しばらくは泣いて喚いて過ごしていたのだが、唐突に、もういいや、と思った。
……だって泣いても戻らないんだ。それなら、もう―――要らない。
落ち込んで這い上がった後は、環境を変えようと必死になった。氷帝に行くのなら姉との二人暮しを許す、と言われた私は必死になって勉強した。エスカレーターの私立は上に上がれば上がるほど入学が難しい。今まで通っていた中学でも、そう悪い成績では無かったが、勉強に打ち込む事で忘れようとした。そして、見事合格し、就職した姉との二人暮しが始まった。



持ち上がりの多い氷帝での生活は不安だったけど、そんなに危惧していた事は起きなかった。地味にした外見とそこそこの成績さえ修めていれば、そう煩くは言われないものだ。出来た友人達は大人しめのお嬢さんばかりで、私はそれなりに楽しくやっていた。

覚えた夜遊びを続けながら。


('06.2.06)


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