湿布を貼られた足は痛んだけれど、それよりも胸が痛かった。驚いたように手を離した比呂くん。抱えて保健室まで運んでくれた比呂くん。真逆の行動がわたしを混乱させる。手を触れるのが嫌だったのに、どうして抱き上げて運んでくれたりしたの。足を引き摺りながら歩いていたら、テニスコートが見えた。そこには比呂くんの姿はまだ無い。わたしのせいで怒られたりしたらどうしよう。ただでさえ迷惑をかけているのに、更に嫌がられるようなことをした自分が腹立たしい。
……まずい。
涙が出そうな気配に、上を向いた。深呼吸を繰り返す。それでもざわつく心までは抑えきれなかった。













あの日以来さんに会わない。最初は偶然だろうと思っていた。学年も違うのだし、今までだって頻繁に顔を合わせていた訳では無いのだから、と。しかし一週間になろうかという辺りで鈍い私もさすがに気付いた。
……避けられている?
次の時間、移動教室で私のクラスの前の廊下を通る筈なのにさんの姿は無かった。時間割変更でもあったのだろうか、そう思い込もうとしたが、さんのクラスの生徒が通って行く。ぼんやりとそれを見つめながら、あの日のことを思い出していた。



あの時、手を離したことを彼女は気付いていた。違うんだ、拒絶したのではない、ただ驚いただけで。誰に言うでも無く脳内を巡る言い訳に頭を抱えた。自分とあまりにも違う、柔らかい皮膚の感触、力を籠めれば容易く折ってしまえそうな細い腕。嫌な訳があるか。出来るならこの腕の中に掻き抱いて閉じ込めていたいくらいなのだから。だが実際触れてみて、怖くなった。多分、彼女が嫌がっても抱き竦めることが私には出来てしまうだろう。きっと簡単に抵抗を封じられる。壊して、しまう。何時か遠くない未来にそうしてしまいそうな自分が、恐ろしかった。





BACK / NEXT
('08.6.26)