星は、すばる。 4・エレクトラ





「仁王くん」
「お、何や」
「幸村くんからプリントを預かりまして」

預かったプリントを差し出すと仁王くんは笑った。

「何です?」
「いや、無意識なんやろな」

プリントを受け取り仁王くんは言う。

「目の探しよる」
「……は」
「今さっき、どっか行ったんじゃ。もう少ししたら帰ってくるじゃろ」

くつくつ笑う仁王くんに、つい恨みがましい視線を向けた。

「―――ごめんなさい、ちょっと通して貰ってもいい?」

噂をすれば影、声に振り向くとさんが立っていた。

「すまんね」
「すみません」

重なった言葉にさんは笑う。

「ううん」

ドア口に立つ私達の間を通りさんは室内に入っていった。甘い匂いを残して。ほ、と思わず肩の力を抜く。それで自分が緊張していた事に気付いた。

「これ、有難うな」
「構いませんよ。では、後程部活で」
「ああ」


* * *


湿度の高い中での基礎練は忍耐力も鍛えられている気がする。昼から降り出した雨は、ひどくは無いが止む事は無く。額に流れる汗を手の甲で拭う。程無くして、幸村くんは部活の終了を告げた。



傘を差して外に出るとさんが校門に向かって歩いていた。

さん」
「柳生くん。珍しいね、こんな早くに帰ってるなんて」
「雨ですから、基礎練だけでした」
「そっか」

赤い傘をくるくる回しながら彼女は笑う。

さんこそ、この雨だと観られませんね」
「そうだね。でも雨も嫌いじゃないよ? それに、雨雲の上でも星は光っているし」
「そう……ですね」

彼女の言葉は胸を打つ。激しい口調でも内容でも無いのに、水が砂に染み込む様に浸透していく。さんは楽しそうに続けた。

「そう考えると楽しい気がする。星は、昼間も見えないだけで消えた訳ではないもの」
「それは、」
「柳生ー」

仁王くんの声にさんは笑って言う。

「じゃあ、お先に」
「あ、はい。お気を付けて」

さんは軽やかな足取りで歩いて行く。傍に来た仁王くんはその後姿を見て動きを止めた。

「……すまん、邪魔してしもたか?」
「いえ、危ないところでした」
「何が」
「抱き締めそうになりました」
「おい……」

呆れたような声で仁王くんは言う。私は大きく息を吐いた。
目の前に居たさんに触れたかった。抱き締めたかった。

「真面目な奴ほど、きれた時が怖かね……」

嘆息しつつ言った仁王くんの言葉で私は笑う。

「ところで、どうかしましたか?」
「や、言いにくかとけど途中まで一緒帰ろかて思うて」

珍しく申し訳無さそうな顔をしているのが可笑しかった。

「では、ご一緒します」


('05.1.28)


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