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生徒会室のドアを勢い良く開ける。


「あれ、ジロちゃん。どうしたの? 部活は?」

生徒会室にはしか居なかった。パソコンのキィボードを打つ手を止めて笑うに口を開く。

「あのさ、」
「うん?」

訊きたいことは頭の中でぐるぐるしてるのに、いざとなると言葉にならない。は眼鏡の奥の瞳を柔らかく緩ませおれが問うのを待っている。

おれは、の眼鏡を取り上げた。

「わっ、ジロちゃん、何するの?!」

は何度か瞬きを繰り返す。

「……ねえ、おれの事見える?」
「え、み、見えるよ?」
「そうじゃなくて、ちゃんと表情とか、」
「……うーん、はっきりとは見えないな。知ってるでしょ、眼鏡が無いと階段も下りられないって」
「じゃあさ……これくらい近付いたら、見える?」

おれが近付くと、は目が悪いやつ特有の表情をした。眉間にしわを寄せ、僅かに顔をしかめる、あの。

「ぼんやりと」
「じゃあ……これくらいなら?」

鼻先が触れそうな程近付いて言うとは笑う。

「あ、そこまで来たら見える……っていうかジロちゃん、近いよ!?」

途端には顔を赤らめた。おれは身を引こうとしたの手を掴み口付ける。触れただけのキスには呆気にとられたようにおれを見つめた。

「駄目。捕まえた」
「な……、何っ、言って、」

―――目隠し鬼さん、手の鳴る方へ。
小さい頃にやった遊びを思い出す。目隠しをした鬼が手探りで逃げるやつを捕まえる、遊び。でも本当の鬼は、おれだ。捕まえるのは、おれ。に目隠しをして何もかも分からなくして。

「おれ、がすきだよ」

はおれの言葉に目を見開いた。

「……ジロちゃん?」
「だから駄目。他のやつになんかやらねぇ」
「他のやつ?」
「告白されたんだろ」
「……どうして知ってるの」

おれはそれを無視して畳み掛ける。

「何て答えたの」
「え、断った、けど」
「本当?」

眉を上げるとは困ったように笑う。

「本当よう。好きな人が居るので、って」
「……好きな人?」

落とされた言葉で、急に目の前が真っ暗になったみたいだった。に好きな人が居る?
……そんなの嫌だ。そんなの……、許せない。

「ジロちゃん」
「……何」

くらくらしながら辛うじて返すと、はおれの顔を覗き込んだ。

「ジロちゃんが、好きだよ」

じい、とおれを見つめ、また顔を赤くする。あまりのことにおれは何を言われたのか分からなくなった。

「……え?」
「小さい時からずっと。他の人なんて目に入らない位、すきだよ」

そしておれの手から眼鏡を取り上げる。何事も無かったみたいに眼鏡をかけては言った。

「これでちゃんとジロちゃんが見える」
「……って、え?」

力が抜けて座り込んだおれに合わせ、は屈みこむ。大丈夫? と小首を傾げる様は、狙ってやっているのかと思うくらい可愛かった。
おれは大きく息を吸い込む。

「……おれと、付き合ってくれる?」
「……喜んで」

嬉しそうに、は微笑んだ。


('06.3.22)


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