5/水蜜
放課後、職員室から教室に戻っていると見覚えのある背中を見つけた。鬱蒼と草が茂る裏庭のベンチにが腰掛けている。近寄って行ってみると、深い緑に紛れ込むように目を閉じていた。
「……おい」
「……あー、跡部くん……」
あいかわらず、とろん、とした目で俺を見上げ、は笑う。塩素のせいか、色の抜けた髪が夕陽を浴びてきらきらと輝いていた。
「こんな所で寝ててよく風邪ひかねえな」
「丈夫なのが取り柄ですから。それに、ここ、気持ちいいんだもん」
「……そうか?」
裏庭は中庭のように丹念に手入れされていないので、暴力的なまでに雑草がはびこっている。あまり人が寄り付かないのもそのためだろう。が今腰掛けているベンチも、錆びかけていた。どうぞ、と促されるまま隣に腰をおろすとは手で覆いもせずに欠伸を一つする。
「まだ眠いのかよ」
「うーん、泳ぐのもだけど、寝るのも好きなんだよね」
答えになっていないの返答は、何故か俺を苛立たせなかった。
「……肩、貸してやろうか」
「えっ?」
ようやく目が覚めたように何度か瞬きをしたに笑みが漏れる。試すように続けた。
「どうする?」
「え、でも、跡部くん、部活はいいの?」
「……今日は、休みだ。お前こそ、部活はどうした」
「私も休みー。そうだな……じゃあ、お言葉に甘えて」
微笑を浮かべたは迷うこと無くそう言った。躊躇うことも無くは俺の肩に頭を乗せる。頭を預けたはすぐに小さな寝息を立て始めた。スカートの上で組まれた手は小さく、細い。短く切られた爪も、化粧をしないのも、全て泳ぐためだろう。肩に零れるの柔らかい髪からは今日はカルキの香りがしない代わりに甘い香りが漂っていて、体の奥底をざわつかせた。
BACK / NEXT
('07.4.24)