きれいな感情・4
言い争うような声が聞こえてきて立ち止まった。
……と、?
「……どうしてよ、!」
「ちょっと待って、何を言ってるの?!」
慌てたようには言う。はいつになく低い声で返した。
「聞いたの。昨日、教室でが柳生くんと抱き合ってたって」
「……違う!」
「だって見たって言ってたんだもん! どういう事、! も柳生くんが好きだったの?!だったらどうして言ってくれなかったの!」
「違うのよ、! だって私の好きなのは、すきなの、は、」
言い淀んだを、気付けば後ろから抱き締めていた。そっと口を覆うように彼女の唇に触れる。
「……すまんのう、」
「に、おうくん……?」
は怪訝そうな表情を浮かべ俺を見上げた。
「昨日のはな、俺」
「……え?」
「俺が、柳生の格好をしとったんよ。柳生から聞いとらん? 今度試合で入れ替わり、するて。昨日は、試しにやってみとっただけ」
「……あ」
は思い出したように呟く。
「そう。俺が、と抱き合っとったんじゃ」
「……やだな、。そう言ってくれたら良かったのに」
はぎこちなく笑って言った。は、腕の中で俯いたまま固まったように動かない。
「、柳生が下で待っとったよ」
「あ……有難う、仁王くん!」
は鞄を掴み、教室を出て行こうとした。
「!」
腕の中のがを呼ぶ。悲痛な叫びに聞こえて目を伏せた。
「……え?」
ドアに手を掛けたままは振り向いた。
「私は……、私は、柳生くんよりの方が好きよ」
は微笑んだ。
「有難う。私も、の事好きだよ」
スカートを翻し、は駆けて行く。その背中を見送って嘆息すると、の指が俺の手に触れた。冷たい、指だった。
「……邪魔やったか?」
「ううん、……有難う」
腕を解くと、はその場に崩れ落ちるように座り込んだ。
「……良かった、仁王くんが来てくれて、言わずに居られて。壊れちゃえばいいとか思ってたのに、いざそうなると、怖くなった」
「……うん」
屈み込んで、彼女の頭を何となく撫でる。艶やかな髪は肩を滑り落ち、の表情を見えなくしていた。
「の幸せを壊したく無いのは、本当なんだよ」
「……知っとうよ」
ぱたぱた、と音を立て床に染みが出来る。
「……何で、私じゃないのかな……」
しゃくりあげる事も無く、静かには涙を零した。
……俺にすればいいのに。
……俺ならお前を受け入れるのに。
気付くと、再び腕を彼女の体に回していた。は体を震わせる。
「仁王、くん?」
不思議そうに呟いた涙声は胸を軋ませた。
「……泣くなら、何かに掴まった方がええじゃろ」
「何、それ……」
は涙に濡れた顔を上げ、微かに笑う。俺の胸に額を当て、シャツの胸元を掴んだ。
「有難う……」
「……うん」
ひとしきり泣いたはそっと俺から離れる。去り行く体温が惜しかった。
「……少し、すっきりした」
「そう」
「もう、失恋していたようなものだけどね」
まだ残る涙を指で拭いながらは立ち上がる。赤い目をした彼女は、俺が立ち上がるのを待って笑った。
「有難う。……本当に、仁王くんが居てくれて、良かった」
「……そりゃあ、どうも」
('05.4.27)
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