5.LVP






「先輩、タオルどうぞ」
「……有難う」

そう言って微笑んでみると、後輩は驚いたように目を剥いた。当然だろう、この間までは受け取っても何も言わずにいたのだから。後輩は頬を紅潮させる。

「い……いえっ」
「悪いけど、これも片付けておいてもらえる?」
「……はいっ」

後輩は嬉しそうに笑った。幸村の言った通りだ。要は加減を覚えろということ。むやみやたらに切り捨てても、抵抗が増えるだけ。それならば――言葉は悪いけど――丸め込んでしまえばいい。

「有難う」

幸村みたいに映りますように、そう願いながらまた微笑んだ。



***



部活終了後、いつものように残って自主練していると幸村が現れた。

「お疲れさま」

何となく、来るのではないかと思っていた。

「……前に、言ってたでしょう」

ボールを籠に戻して口を開く。幸村はきょとんとした顔をした。

「何を?」
「ルーシーのL、って。あれはどういう意味?」

幸村は微かに笑う。

「ピーナッツって漫画、知ってる?」
「……知らない」
「スヌーピーって言った方が有名かな。ルーシーっていうのは主人公の友達で、気が強くて、口の悪い女の子」
「……その通りだけど」

幸村は笑顔のまま続けた。

「ルーシーは、好きな相手の前でも口が悪いんだ」
「……え?」

呆けたように幸村を見上げた私に、にやりと唇の端を上げる。

も、そうだよね。俺の前だと特に口が悪いし」
「私、けなされてる?」
「そこに食い付くか」
「……っていうか、それだと私が幸村を好きみたいじゃない」
「あれ、違うの?」

幸村は揶揄うように言った。

「……違うわよっ」

思い切り顔を背けて言うと幸村は堪え切れなかったのか吹き出した。黙ってれば年上にも見える綺麗な顔立ちをしているのに馬鹿笑いしてるとちゃんと年相応に見えるから不思議だ。

「……そろそろ帰ろうか」

ひとしきり笑った幸村はさりげなく言った。深読みしそうになる心と緩みそうな頬を抑えると眉根が寄ってしまう。

「何それ、どうして私が、」
「俺が、と一緒に帰りたいんだ」
「え……」

思わず顔が熱くなる。その優美な笑顔に胸の奥が音を立て、再び目を逸らした。


問題が全て解決したわけじゃない。あいかわらず私は陰でLと言われているし事態が好転した訳でも無い。今まで頑なだった人間が、急に愛想良くなったからと言って信じられるものでもないだろう。でも分かったことがある。肩の力を抜いてみても意外と物事はうまく回るんだと。流されるんじゃなく流れにうまく乗っていけば、衝突は少なくて済むんだと。
それに、少なくとも一人は「LはルーシーのL」だと思ってくれている。その一人が、幸村がそう思ってくれるのなら、Lと呼ばれるのも悪くない、と思った。


「……仕方ないから、一緒に帰ってあげる」

それだけ言い置いて私は幸村に背を向ける。これ以上顔を合わせてい
ると、顔がにやけてしまいそうだった。


('07.2.26)


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「シュローダーのS」幸村視点








ルーシーのL、というタイトルが降りて来たので書いた話です。
(ちなみに、最初のページタイトルはブラッドベリの「R is for Rocket」から。日本語タイトルだと「ウは宇宙船のウ」。読んだこと無いけど)
以下、蛇足ー。
もう、本当にタイトルだけ出来てて。で、そこからLと呼ばれるような子を考えていくと態度がLサイズ(@創竜伝)な子しか思いつきませんでした(Lって言ったら今はデスノなのかな)。それからお相手は幸村にしようと書き始めたんですがこれが難産で。幸村との遣り取りはすいすい書けたんですが(グレイな幸村を書くのが楽しかった……)、ヒロインの心情部分とか、呼び出し食らうシーンで詰まってしまって(経験無いから想像だけだし)。やー、無事書き終えられて良かったです。

ルーシーと言ったら何かも悩みました。好きなアーティストさんのアルバムタイトルとか(同名の曲もある)、色々考えたんですが、そういや好きなアーティストさんの名前は「ピーナッツ」のルーシーからだったよなあと(Tさん大当たりです! 直前にメールで言われてどきっとしました! うふふ、あいかわらずのシンクロ率……!笑)。
それからこれの為にピーナッツを読んだりウィキペディアで調べたり。ルーシーは口が悪くて自信家で、でもチャーリー・ブラウンが怪我した時はおろおろしてしまったりするような子だ、というのでルーシーはそこからと決まりました(イメージ違ったら申し訳ない)。

そんな訳で章毎のタイトルは「ピーナッツ」の登場人物の頭文字からなのでした(最初から、チャーリー・ブラウン、スヌーピー、ウッドストック、サリー・ブラウン、ルーシー・ヴァン・ペルトです。ルーシー以外は適当な順番・笑)。

幸村視点のお話も考えているのでいずれ。