クロゼットフリーク・3
「宍戸ー」
「何だよ?」
「これ、跡部に頼まれてん」
宍戸は隣の隣のクラスなのだけど。
跡部のクラスからすると俺が近いという事で頼まれたものだった。頼まれたというより、命じられたといった方が正しいが。教室のドア口から呼びかけると不機嫌そうに返事をした宍戸の傍らには女子生徒が立っていた。傍に歩いて行くと、お願いしますね、と宍戸に言い残し、すい、と俺の横を擦り抜けていく。
……見覚え、無いなあ。
「何や、邪魔してもうたか?」
「今終わった。あー、めんどくせー」
「なあなあ、宍戸。あのコ、誰」
宍戸は、またか、と顔を顰めた。
「……お前ホント見境無えな!」
「そんなんちゃうて。見た事無いなあ思て」
「ああ。高等部からの外部入学生だからな」
「へー」
ぎしぎしと音を立てそうな程きつく編まれた細い三つ編みが背中で揺れる。セピア色のセルフレームの度は強そうだった。クラスには馴染んでいるようで近くの席の女子達と笑っている。その姿は、ひどく気になって。
「外部入学生とか言うたら目立つもんやのに」
「はそういうタイプじゃなさそーだな」
宍戸は言う。
確かに、外部入学生というファクターを除いたら埋没してしまいそうな感じの女子生徒だった。まあ、彼女一人が外部入学生という訳でもないし。
「ありがとな、忍足」
「……ああ、うん」
***
「お疲れー」
「おー。侑士また明日なー!」
「あっ。忍足、お前この前貸したCD忘れんなよ!」
「……あー、はいはい」
宍戸に適当な返事をして背を向けた。
帰り道を歩きながらの事を考えていた。まさかな、と思いつつも、思考は止まらない。後姿や声、笑顔。どう見ても、あれは。
***
「さん」
彼女は不思議そうに顔を上げた。そして顔を赤らめる。
「な、何でしょう」
その表情にはあの夜の面影はない。しかし。
「話あるんやけど」
「え?」
「ちょっと、ええか?」
教室の外を示すと、彼女は立ち上がった。ここでする話ではないと気付いたのだろう。そのまま廊下に出て、屋上へ向かう。彼女は大人しくついて来た。
「……この前はドーモ」
「何の事ですか……?」
俯いた彼女は声を震わせ訊き返す。
「いやー、女は魔物とはよう言うたもんやわ」
「……言ってる意味が、よく分かりません」
きゅ、とスカートの端を握り締め言を紡ぐ姿を見ていると苛めている気分になった。ひょっとしたら自分の勘違いやないか、と思うほどに。しかし、妙な確信があり、続けた。
「本当は分かっとるんやろ」
手を伸ばし、彼女のうなじの下辺りにを指を這わせる。彼女は躰を震わせた。
「なあ……このほくろ、見覚えあるんやけどな、さん」
名簿で確認した下の名前は、聞き覚えも呼んだ覚えもあるものだった。
は顔を上げ、薄く笑う。
「……おっかしいなあ。どこでバレたの?」
さっきまでの態度と表情からは想像も付かない変わりよう。おどおどした様子は鳴りを潜め、飄々とした表情を浮かべている。
「宍戸のクラスに行った時気付いたんや。……まさか同じ学校やったなんてな。道理でテニスやっとる事知っとる筈やわ」
「あー……、あれね。バレたかと思ってひやひやしちゃった」
「……それ、ダテなん?」
「ちゃんと度は入ってるよ。……夜はコンタクトなの」
は意味深長に瞳を揺らした。
「……その節はドーモ」
「こちらこそ。大変楽しい時を過ごさせていただいて」
「なあ、ジブン、ああいう事ばっかりしてるん?」
「貴方には言われたくないなあ。一応選んでは居るよ?」
「選んで、って」
呆れて返すと、はくすくす笑って言った。
「誰にも言わないで貰えると有り難いんですが?」
「まあ、言うつもり無いけど」
「そう? それは良かった」
腰に両手を当て微笑む姿は、夜と変わりが無く。ここが学校である事を忘れてしまいそうだった。
('04.10.15)
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